新型コロナウイルスのパンデミックは、聴覚障害者らに新たな課題をもたらしている。例えばマスク着用や個人防護具の装着が、唇の動きや表情を読み取ることを難しくする。元来のコミュニケーションの困難さが社会生活の制約から助長されている。技術はそれらの課題に想像力で追いつくことができるか。
英BBCでは北アイルランドのパンデミック下で明るみとなった、聴覚障害者をめぐる多くの課題についてインタビューが行われている。乳幼児における人工内耳の導入が都市封鎖で影響を受けているケースや、医療相談サービスに遠隔ビデオ通訳機能が付随するまでに大きな遅延が生じた事情、遠隔での教育サービスが聴覚障害児にとって容易ではないこと。また、マスク着用が半ば義務化されている社会の状況が、手話の大きな部分を補佐する「顔の表情や唇のパターンの読み取り」を不可能にしている点などが示されている。
日本国内でも同様の課題が挙げられているが、公衆衛生上の対策や新規技術開発は、どこまでマイノリティの困難さに想像力を働かせることができているだろうか。また一方で、唇の動きが読み取れる透明のマスクが試用されたり、品質の担保されないフェイスシールドが活用されるという方向性も、適切な医学的根拠とは離れ、現場の判断に委ねられている面がある。withコロナ時代として遠隔診療がもてはやされても、高齢者を多く抱える市中の医療機関では旧来の電話通話とFAXでの対応が関の山という状況もある。日夜生み出されていく先端技術は万人に優しいユニバーサルデザインに寄り添うことができるか。その基礎にある博愛精神が試されているかもしれない。