音のない世界とパンデミック

新型コロナウイルスのパンデミックは、聴覚障害者らに新たな課題をもたらしている。例えばマスク着用や個人防護具の装着が、唇の動きや表情を読み取ることを難しくする。元来のコミュニケーションの困難さが社会生活の制約から助長されている。技術はそれらの課題に想像力で追いつくことができるか。

BBCでは北アイルランドのパンデミック下で明るみとなった、聴覚障害者をめぐる多くの課題についてインタビューが行われている。乳幼児における人工内耳の導入が都市封鎖で影響を受けているケースや、医療相談サービスに遠隔ビデオ通訳機能が付随するまでに大きな遅延が生じた事情、遠隔での教育サービスが聴覚障害児にとって容易ではないこと。また、マスク着用が半ば義務化されている社会の状況が、手話の大きな部分を補佐する「顔の表情や唇のパターンの読み取り」を不可能にしている点などが示されている。

日本国内でも同様の課題が挙げられているが、公衆衛生上の対策や新規技術開発は、どこまでマイノリティの困難さに想像力を働かせることができているだろうか。また一方で、唇の動きが読み取れる透明のマスクが試用されたり、品質の担保されないフェイスシールドが活用されるという方向性も、適切な医学的根拠とは離れ、現場の判断に委ねられている面がある。withコロナ時代として遠隔診療がもてはやされても、高齢者を多く抱える市中の医療機関では旧来の電話通話とFAXでの対応が関の山という状況もある。日夜生み出されていく先端技術は万人に優しいユニバーサルデザインに寄り添うことができるか。その基礎にある博愛精神が試されているかもしれない。

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TOKYO analytica
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。
The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。

1. M.Okamoto MD, MPH, MSc, PhD
信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(University College London)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員を経て東京大学特任研究員など。専門はメディカルデータサイエンス。

2. T.Sugino MD
防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。