結核はHIV陽性患者における「予防可能な死」の主因として知られ、未診断のまま適切な治療介入なく経過している症例が少なくない。これは胸部レントゲン画像における所見が非定型であることや、HIV感染の多発エリアでは読影を担当する放射線科医が不足していることがその背景にある。米スタンフォード大学などの研究チームは、胸部レントゲン画像からHIV陽性患者の結核を検出する深層学習アルゴリズムを開発した。
Natureの関連誌にあたるnpj Digital Medicineで9日公開されたチームの研究論文によると、南アフリカに所在する2つの病院で、結核感染が疑われる677名のHIV陽性患者における臨床情報データベースからアルゴリズムを構築したという。さらに、開発した結核診断AIを利用し、臨床医の診断業務を適切に支援できるかの評価までを行ったところ、臨床医単独での平均読影精度0.60(95%信頼区間0.57-0.63)から、AIアルゴリズムを診断業務に併用することで0.65(同 0.60-0.70)へと僅かな改善がみられた。一方で、テストケースとして施行した「アルゴリズム単独での平均精度」は0.79と高値を示していた。
研究成果は、HIVと結核の共感染が特に深刻となるエリアでの、AIアルゴリズムの臨床的有効性を示唆するものとなる。また「読影に関する専門人材の確保が難しい状況下において、AI導入は有効な選択肢となること」を研究チームは指摘する。頑健なエビデンス構築に至るには今後、一定の識別精度を有するAIアルゴリズムを導入してなお「なぜ医師の診断パフォーマンスを大幅に改善することはできなかったのか」を、質的研究を含めたより精緻な検証を行っていく必要があるだろう。