AIは投薬のエラーを予防できるか?

医師の投薬オーダーのミスを減らす様々な技術の開発が進んでいる。その一方で現状のアルゴリズム開発が現場の投薬ミスを正確に認識できるかについて限界も示されている。カナダのモントリオールにあるラバル大学と、大規模小児医療センターのCHU Sainte-Justineで行われた共同研究では、投薬オーダーの異常を検知する機械学習モデルの臨床的な有用性が検証された。

プレプリント版としてarXivで公開中の同研究によると、2005年から2018年まで284万件以上の投薬オーダーから訓練された異常な投薬オーダーを検出する機械学習モデルについて、前向き研究が2020年4月から8月まで実施された。その間にオーダーされた12,471件の投薬に対して25名の薬剤師がモデルの性能を評価したところ、異常検出の精度F1スコアは0.30と低いパフォーマンスを示した。一方で処方箋内に「何らかの非定型な異常オーダーが含まれる」という予測であれば、F1スコアは0.59と満足できる精度を達成できた。

著者らによると、このモデルにおける個々の投薬オーダーの異常検出については薬剤師の信頼に及ばなかったが、どの処方箋に異常が含まれるか特定することについては満足できる結果であった。今後は、臨床の意思決定支援ツールとして利用するもののひとつとして、予測の質を向上させていくことが有益であると述べられている。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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