病理学におけるAI技術は加速する機運を見せ、日々新しい話題が提供されている(過去記事参照)。病理学AIの大規模な国際共同研究がオーストラリアからも広がっている。豪州核科学技術機構(ANSTO: Australian Nuclear Science and Technology Organisation)の支援のもと、シドニー大学主導により病理学AIアプリケーション「PathoFusion」が開発された。
ANSTOの11日付ニュースリリースでは、PathoFusionが可能とする自律型の病理診断機能について紹介されている。同技術の基礎的背景は学術誌 CANCERSに掲載された。PathoFusionはオープンソースAIフレームワークとして開発されており、BCNN: bifocal convolutional neural networkというアプローチによって、病理検体のスライド画像上の悪性所見を自律的に認識させる。その手法は、病理医が弱拡大・強拡大というような焦点の合わせ方で、組織の中にがんの形態的特徴を認識する方法に類似しているため「2焦点(bifocal)」と呼ばれる。HE染色及び免疫染色(CD276)で脳悪性腫瘍の膠芽腫を検出させマッピングする実験では、HE染色(AUC 0.985)・免疫染色(AUC 0.988)のいずれにおいても十分に高い精度を達成した。
研究グループのひとりでシドニー大学教授のManuel Graeber氏によると「今回の研究は、比較的少ない症例数でニューラルネットワークを効率的に学習させることが可能となりました。将来的なハードウェアの計算能力向上を想定すると、人間が行う顕微鏡での認識速度を数桁上回るはずです。開発したモデルによって顕微画像の分析が容易になれば、病理診断のワークフローを改善したり、診断サービスを受けにくい遠隔地の患者に恩恵が与えられるでしょう」と語っている。