医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例AIによる放射線治療計画は臨床に受け入れられるか?

AIによる放射線治療計画は臨床に受け入れられるか?

がんの放射線治療で、適切な治療計画を作成するためにAI/機械学習(ML)を用いることが実用化されつつある。人によるマニュアル操作での放射線治療計画に比べ、AIの利用によって精度と作業効率の向上が期待される。しかし、実際にAIが現場の臨床医に受け入れられ、選択されるか、議論の余地がある。

カナダ・トロントを中心に病院ネットワークを展開するUniversity Health Networkのプレスリリースによると、同ネットワークのプリンセス・マーガレットがん研究所で、MLが生成した放射線治療計画が臨床現場に受け入れられるか、人間の作成した治療計画と直接比較する研究が行われた。研究成果は学術誌 Nature Medicineに6月3日付で発表された。その結果、調査対象となった100名の前立腺がん患者について、MLによって生成された治療計画は89%が「臨床的に許容できる」と判断された。また、72%の腫瘍科医が人間の作成した計画よりもAIによる計画を好んで選択した。MLによって、放射線治療全体のプロセスは、人間が行う場合の118時間から47時間に短縮し、効率が約60%向上したとする。

一方、シミュレーションでは選択されやすいMLによる治療計画も、実際に現場の人間がそれを信頼できず、危ういと感じれば実臨床では選択されにくくなるという結果も示されている。既に治療を受けた患者群ではMLによる治療計画が選択された割合(シミュレーションとして選択された割合)は83%であったが、治療前の患者群ではMLによる計画が選択される割合(実際の治療計画として選択される割合)は61%に低下した。研究グループでは「AIによる治療プログラムが、臨床現場の腫瘍科医から継続的にフィードバックを受け、臨床の正確さをどれだけ反映しているか、常に改良され続けることが必要である」と強調している。

関連記事:

  1. 臓器位置変動へのAI画像補正が放射線治療を変革するか?
  2. AIが放射線治療導入を最適化させる
  3. あなたに最適な放射線治療をAIが決める – クリーブランド・クリニック発の新研究
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事