臨床家にとって視覚情報は重要な意味を持つ。「患者の顔つきのみから疾患を推定できることも十分にある」というのは熟練医のコンセンサスが得られるところでもある。近年、このようなゲシュタルト診断を「AIアルゴリズムによって再現・高精度化させる取り組み」が多方面でみられている。
オランダ・フローニンゲン大学医療センターの研究チームは、合成画像によってトレーニングした深層学習アルゴリズムが、顔画像によって疾病罹患者を識別できる可能性があることを明らかにした。Frontiers in Medicineからこのほど公開されたチームの研究論文によると、Chicago Face Databaseに登録されている126枚の健常人画像を用い、うち26枚を画像加工によって急性疾患の罹患者様顔貌に修正することでモデルの学習を行った。さらに22名のボランティアを対象として、リポポリサッカライド(LPS)を投与し、敗血症症状を再現した上で、投与前後の写真によってモデルの性能を検証した。結果、顔貌からの疾病罹患者識別において感度は100%を達成しており、除外診断ツールとしての有用性を示していた(感度が高い検査では偽陰性が少ない。本例で言うと、実際は疾病罹患があるにも関わらず「罹患無し」と判断されてしまうケース(偽陰性)は少ないことになるので、陰性結果をもって高確率に「罹患無し」と推定できる)。一方、トレードオフによって特異度は42%にとどまっていた。
研究者らは「顔写真の合成拡張データセットを用いて学習した深層学習アルゴリズムは、健康な人と模擬的な急性疾患の人を区別し、大規模データセットの入手が困難な健康状態に関するアルゴリズム開発に、合成データを使用できる可能性も示した」としている。クリニカルゲシュタルトへの新たなエビデンスを加えるとともに、利用可能なリアルワールドデータの不足しがちなヘルスケア領域において、AI構築に際する示唆的な研究成果と言える。
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