「デジタルツイン」の実現に向けて

現代医学は、ただ「疾患を待つ」といった治療中心の学問から、予防的で学際的な科学へと移行する必要がある。より個別化された体系的な医学を達成することを考えた時、遺伝子レベルで同質であるコピーモデルは、あらゆる医学研究において優れた研究対象となる。英ケンブリッジ大学の研究チームは、「人体全体をモデル化した患者デジタルツイン」を提案している。

Frontier in Geneticsに掲載されたチームの研究論文によると、AIおよび数理モデリングを統合したフレームワークにより、臓器・組織・細胞レベルでの情報を組み合わせたデジタルツインモデルを生成した。ここから、2つの臨床事例を検討している。1つ目では、グラフニューラルネットワーク(GNN)を用い、バイタルパラメータの変化を示すような臨床エンドポイントをモニタリング・予測することで、現在および将来の患者ステータスを一望することができた。また他方では、敵対的生成ネットワーク(GAN)を用い、血液および肺の多組織発現データを生成し、レニン・アンギオテンシン経路における遺伝子発現を条件とした「サイトカインの関連性」を見つける方法を示している。

研究チームは「マルチスケールの計算モデリングとAIを統合する上で、このような模擬患者におけるグラフ表現が重要となる可能性」を指摘しており、デジタルツインの実現と効果的なシミュレーション手段について強力な科学的示唆を与えている。

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