組織画像への仮想染色

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームは、生検した組織サンプルに対して「仮想的な再染色を行うAIツール」を開発した。現時点でこのツールは、人間が行う特殊染色と同等の精度を実現しているという。

特殊染色は組織サンプルを化学反応に基づいて染色する手法を指し、特定の染色液によって組織・細胞の構造観察を容易とする。ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色が標準的だが、臨床例では病理医が理解しやすい明確な診断像を得られるよう、異なる組織成分のコントラストと色を強調するため、このような特殊染色が追加的に必要となる。一方、準備に時間がかかること、モニタリングの回数が増えること、コストが高くなること、などのデメリットがあった。Nature Communicationsから公表されたUCLAの研究報告によると、このプロセスを高速化するため開発された新しいツールでは、H&Eで染色された組織画像を「深層学習によって特殊染色を加えた新しい画像に変換」できるという。

研究チームはプレスリリースの中で、「我々は組織工学の専門家が行う特殊染色を不要にする、深層学習ベースの新しい技術を開発した。速度と精度の向上は、臓器移植における拒絶例のように、一刻を争う病状診断にとって特に重要であり、迅速かつ正確な診断によって臨床転帰が大きく改善される可能性がある」としている。本ツールは複数機関においてその有効性が既に検証されており、H&E染色画像のみを使用した場合と比較して、仮想的に生成された特殊染色画像では「診断結果が有意に向上する」ことも明らかにされている。

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