試験管内のニューロンがビデオゲームPongを学習する

神経細胞(ニューロン)をデジタルシステムに結合し、細胞がもっている計算能力を利用する技術が手の届きそうなところにきている。オーストラリアでコンピュータチップを開発するスタートアップ「Cortical Labs」の研究者らは、「ヒト脳細胞の塊にビデオゲーム”Pong”を教え込んだ研究」を公開している。

bioRxivのプレプリントサーバーで公開中の同研究では、「サイボーグ」と名付けられた”ヒト幹細胞を脳細胞に成長させた塊”に、卓球を模した原始的なビデオゲームPongを学習させるシステムを開発した。Pongは飛んでくるボールに対し、パドルを移動させて跳ね返す単純なゲームである。開発したシステムでは、ボールの位置を電気信号として細胞に伝えており、例えば右側にある電極が発火すると脳細胞はボールが左にあることを知る。また周波数情報からボールとの距離を知るといった仕組みとなっている。サイボーグはゲームがうまくいくためのパドルの動かし方を繰り返し学んでいき、電気信号としてフィードバックする。システムは5分以内でゲームの遊び方を学習することができ、これは既存のAIマシンよりも大幅に早いレベルと研究チームは考察している。しかし、現状でのスキルレベルはヒトやAIよりも遥かに低いという点に改良の余地がある。

生きたニューロンの計算力を利用するSBI: synthetic biological intelligence(合成生物学的知能)は、強力なAGI: artificial general intelligence(汎用人工知能)よりも先に実用化するのではないかと予想する科学者も少なくない。脳の働きに着想を得た「ニューロモルフィックコンピューティング」も別のアプローチとして注目を集めており、Intelのチップ「Loihi」を以前に紹介した(過去記事)。今回のSBI研究成果は、機械学習システムの設計改善や、脳疾患を対象とした治療法の検証など、様々な用途への応用が期待される。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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