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AIと対面型スクリーニングを組み合わせた自殺リスク予測

米国では、ここ20年の自殺率上昇が社会課題となっている。米ヴァンダービルト大学医療センター(VUMC)では、「コロンビア自殺重症度評価尺度(C-SSRS)」による対面型の自殺リスクスクリーニングを導入する一方で、2019年から電子カルテデータに基づく「VSAIL: Vanderbilt Suicide Attempt and Ideation Likelihood」と呼ばれる機械学習アルゴリズムをバックグラウンドで試験運用してきた。

JAMA Network Openに発表された同プロジェクトの研究成果では、自殺リスク評価における「AIアルゴリズム」と「対面型スクリーニング」を比較検証したところ、双方を組み合わせた「アンサンブル学習(ensemble learning)」により自殺リスクの予測性能が向上したとする。VUMCにおける120,398名の患者を対象とした解析の結果、対面型のC-SSRS、およびAIアルゴリズムのVSAIL、それぞれでリスクスコアが最も高い10%の患者群では「約200人に1人」が30日以内に自殺未遂に至った。一方でアンサンブル学習でリスク上位10%と推定された患者群では「約200人に3人」が30日以内に自殺未遂に至った計算となり、それぞれの手法を単独で用いるより優れた予測性能を示していた。

VUMCのインタビューに対し、研究チームの統計アナリストであるWilimitis氏は「本研究で用いたアンサンブル学習は、臨床スクリーニングと機械学習の長所を組み合わせ、短所を減らしたものだ。この補完的性質はリスク検出のために、臨床医の専門知識、患者情報、およびAI手法の間でさらなる統合を促す」と説明した。チームではバックグラウンドで稼働してきたVSAILシステムを無作為化臨床試験へと進め、自殺リスクスコアの高い患者について電子カルテ上で医師に警告を発することで、対面型スクリーニングの効果的な実施につながるか検証する予定という。

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