医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例疾患予防へのAI活用事例韓国で55歳以上の自殺念慮を予測するAIモデル

韓国で55歳以上の自殺念慮を予測するAIモデル

高齢者における自殺率の高さは国際的に深刻な問題だが、高齢化が急速に進む東アジア諸国、特に韓国においてはその解決が重要な社会課題となっている。同国における2019年の統計では、高齢者の自殺率が「10万人あたり46.6人」と全年齢層で最も高い結果となった。自殺リスクの高い高齢者には、より慎重でリスク因子に焦点を絞った的確な介入が必要となる。課題解決を目指し、「55歳以上の自殺念慮を予測する機械学習モデル」に関する研究が、韓国Gacheon Universityのグループから発表されている。

Neuropsychiatric Disease and Treatment誌に掲載された同研究では、55歳以上(平均71.4歳)の韓国人6,410名を分析対象としており、過去1年に深刻な自殺念慮があった者は173名(2.7%)であった。対象者における26の潜在的予測因子から、ランダムフォレストモデルを構築した。結果、自殺念慮の予測において、AUC 0.879・感度0.750・特異度0.874という識別性能が示されている。モデルにおいて最も高い予測力を示した変数は「うつ病の重症度」、次いで「生活満足度」と「自尊心」であった。年齢・性別といった基本属性に関する変数は、比較的小さな影響であることも示された。

上記のようなリスク因子は従来型の研究でも示されてきたが、「特定の人が自殺念慮を抱くか」のアウトカム予測までは容易ではなかった。本研究のような機械学習モデルにより、個人ごとのアウトカム予測に基づくリスク評価は、効果的な臨床介入のきっかけとなる。研究グループは「将来の自殺念慮を予測するにはまだ限界があり、生物学的指標と認知的指標の双方を含む予測モデルを作成していく必要がある」と結論づけている。

関連記事:

  1. メンタルヘルスへのチャットボット – 自殺リスク発言を遺書から学習
  2. 自殺リスクのリアルタイム予測モデルは臨床現場で性能を発揮するか?
  3. Clairity – 音声から自殺リスクを推定するAIアプリ
  4. 高齢社会の孤独にヒトとAIはどう立ち向かうか
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事