医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例メンタルヘルスへのチャットボット - 自殺リスク発言を遺書から学習

メンタルヘルスへのチャットボット – 自殺リスク発言を遺書から学習

オーストラリアは国際的にも自殺率の高い国とされ、人口10万人当たり12〜13という死亡率で推移している。オーストラリアのe-Health Research Centreという研究機関では、自殺リスクのある発言を会話エージェント(チャットボット)がどのように扱うか、システムデザインに関する研究を行っている。日常のあらゆる場面にチャットボットが組み込まれていくなか、その開発者は人間のデリケートで複雑な発言を扱う課題に直面している。

Healthier Lives, Digitally Enabled誌に掲載された、同研究機関からの成果報告では、100通以上の遺書を解析し、自殺念慮を持つ人の文章にみられる4つの言語パターンを抽出した。1.抑圧的思考(「どちらか一方」「常に」「決して」「永遠に」「何もない」「完全に」「すべて」「唯一」)、2.論理的誤謬(非論理的で病的な推論、「すべてに失敗してきた。このようにすれば、私は成功できるだろう」)、3.言語イディオム(自殺を暗示するが婉曲的でチャットボットが正しく解釈できないフレーズ「私の魂に神の御慈悲がありますように」)4.否定的感情(「ただ、この重く、圧倒的な絶望」)、という4つに類型している。

自然言語処理技術の進歩によって、これらの自殺を連想する発言を正確に検出できれば、チャットボットはより繊細で配慮のある対応ができるようになる、と研究グループでは推察する。「言葉が現実世界の複雑なシナリオと関連していること」をどのように機械に理解させていくか、その研究領域には発展余地が大きい。

関連記事:

  1. Clairity – 音声から自殺リスクを推定するAIアプリ
  2. スマートスピーカーとの会話で自殺予防
  3. メンタルヘルスへのAI活用 – 自殺予防ゲートキーパーを見つけるアルゴリズム
  4. 自殺リスクのリアルタイム予測モデルは臨床現場で性能を発揮するか?
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事