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イスラエル国内の尿路感染症治療精度を大きく向上させたAI

尿路感染症は女性が最も高頻度に経験する細菌感染症で、女性全体の約3割が一生に一度以上かかり、全体の1割が再発を経験するとされる。各国・各地域では、尿路感染症の治療ガイドラインに従って抗菌薬による治療が行われる。しかし、耐性菌の存在によって治療計画の変更が余儀なくされることも少なくない。テクニオン-イスラエル工科大学は、医療機関KSMと協力し「患者ごとに個別化された抗菌薬選定を行うAI」を開発し、尿路感染症の治療精度を高めようとしている。(同研究の2019年時点での成果は過去記事参照

テクニオン-イスラエル工科大学の15日付リリースでは、抗菌薬選定アルゴリズム導入以降、イスラエル国民健康保険における4大グループのひとつ、マッカビヘルスケアサービスにおける延べ数万件の尿路感染症治療で「耐性菌による抗菌薬切り替え事案が約35%減少した」ことを公表している。すなわちこれは、AIアルゴリズムによって「尿路感染症に対する抗菌薬選定の精度が大きく向上した」ことを意味する。このシステムは臨床ガイドラインのほか、患者の年齢・性別・妊娠歴・高齢者施設生活歴・尿路結石既往・抗菌薬投与歴などに基づいて、患者個々に最適の抗菌薬を提案する。

マッカビヘルスケアサービスで医療情報ディレクターを務めるShira Greenfield氏は「個別化された抗菌薬治療の意義は、耐性菌発現リスクを低下させることにある。これは全世界すべての医療機関が解決に向けて取り組んでいる問題だ」と語る。マッカビでは、尿路感染症での成功を受け、他感染症にも対応したさらなるシステム開発に着手しているとのこと。イスラエルにおける本事例は、個別化医療に関する重要なマイルストーンとしてヘルスケアの総体にとっても大きな意義を持つ。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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