医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例BIOVIA GTD - AIで創薬を加速させる

BIOVIA GTD – AIで創薬を加速させる

今日の医薬品産業においては「創薬サイクルの短縮と効率化」が競争力強化のカギを握っている。今回は、AIソリューションによる「創薬の加速」を提案するダッソー・システムズおよびメディデータ・ソリューションズへの取材を通し、その取り組みの仔細を明らかにするとともに、本年9月15日に開催されるメディデータ・ソリューションズのフラッグシップイベント「Medidata NEXT JAPAN 2022」の概要を伺った。

 

1. BIOVIAについて

 

– まず、製品の概要についてお教えください。

BIOVIAは膨大な「サイエンスデータ」の活用により、製薬企業やバイオベンチャーにおける「創薬スピードの向上」をサポートするソリューションです。研究や開発、QA/QC、製造全体の、サイエンス・実験プロセス・情報に関する多様な要件をエンドツーエンドで統合することで、「効率的かつ効果的な創薬」の実現に向けてこれら企業群を支援しています。科学インフォマティクスや分子モデリング/シミュレーション、データサイエンス、ラボラトリインフォマティクス、製剤設計、医薬品品質/コンプライアンス、製造解析など、各領域の多彩な機能を備えています。

BIOVIA は、イノベーションの強化と促進、生産性の向上、品質とコンプライアンスの改善、コスト削減、製品開発の加速化に役立つソリューション群となっています。

 

– シェアや、競合製品に対する優位性はいかがでしょうか?

現在、製薬企業及びバイオテクそれぞれトップ25の企業すべてが、BIOVIA製品のユーザーとなっています。

ダッソー・システムズがこれまでに培ってきた、オートモーティブやマニュファクチャリング業界で既に広く使われているバーチャルツイン技術を応用し、ライフサイエンス・ヘルスケア業界における研究開発から製造工程までの創薬ライフサイクルをカバーしています。また、BIOVIAの各ソリューションは、ダッソー・システムズが提供するプラットフォーム「3DEXEPRIENCE プラットフォーム」に組み込まれており、製品のサイロ化を解消し、企業全体におけるデータの一元管理および活用と部署間のコラボレーションを促進することができます。

 

– 導入効果として分かりやすい事例をご紹介ください。

BIOVIA の主力製品であり、またBIOVIAの他の製品間をつなぐプラットフォームの役割も果たしているPipeline Pilotは、ファイルやデータベースなどのあらゆるデータソースに接続し、パイプをつなげることでデータ処理の一連の流れ(入力/加工/出力)を作成し、ノンプログラミングでデータフローを可視化することができます。

スプレッドシートのピボットから画像解析まで、多数のデータ解析プロセスには、いまだに面倒な手作業が必要になっていますが、Pipeline Pilot では、このようなプロセスを自動化し、タスクのスケジューリング、データセットのクリーニングおよび結合、インタラクティブなダッシュボードのセットアップが可能になります。お客様へのアンケートでは投資対効果の中央値は6.5で、82%のお客様が「データ集積の時間が短縮された」と回答されています。

また、「電子実験ノートの導入により、無駄な繰り返し実験が30~50%削減された」「報告書作成時間が半減した」「試薬管理システムの導入により、試薬使用料が35%削減された」「工場向けシステムの導入で、年次報告書作成にかかる時間が1か月から数時間に短縮された」など、多くのお客様からデジタル化の効果が表明されています。

 

– BIOVIAソリューションにおけるGTDの立ち位置と、その概要をお教えください。

Generative Therapeutics Design(GTD)は主に、「創薬プロセスにおける探索研究」の段階でお役立て頂けるソリューションです。探索研究では、1千万個から10億個と言われる化合物の中から、新薬の素となるリード化合物を見つけ出す作業があります。また、スクリーニングによって導き出されたリード化合物について、効果や安全性など多面的な評価を加え、最適な化合物の組み合わせを絞り込んでいく「リード最適化」という工程があります。

初期段階で安全性や毒性を評価しておくことで、臨床試験に進んだ際のAE(有害事象)の発生やそれによるドロップアウトのリスクを低減することにもつながるため、研究段階で、より最適なリード化合物を絞り込んでおくことが重要になります。GTDはこのリード最適化にかかるコストと時間を大幅に短縮することを目的に製品化されました。

GTDはこれまでのようにバーチャルを担当する計算科学者とデータのやりとりをすることなく、リアルの合成を担当するケミストが直接使うことができます。ケミストのアイデアが直接反映されたデザインでリアルな試験を行い、結果を分析して再びバーチャルで試験を実施するというサイクルをスムーズに回すことができるソリューションです。

BIOVIA GTD紹介動画(英語):https://youtu.be/Ii7zlyQRr9I

 

– 従来型のリード最適化における課題とGTDが解決可能な点について、詳しくお教えください。

リード化合物の最適化は、従来試行錯誤のプロセスで、合成・評価・解析・デザインのサイクルを幾度も回しながら、活性や安全性を始めとする多くの特性を同時に最適化する必要がありました。BIOVIA GTDは進化的アルゴリズムを用いた化合物構造の自動生成と機械学習、並びに複数のプロパティを同時最適化するための仕組みを組み合わせることにより、コンピューター上でこのサイクルをバーチャルに実施、最適な化合物を自動的に提案することのできる新たなソリューションです。GTDの利用によってデザインフェーズを改善、実際の合成や評価等の実験回数を減らすことで、リード最適化の期間とコストを大幅に短縮します。

 

 

– GTDにおいて特に強調すべき、革新的な機能はどのようなものでしょうか?

BIOVIAはその前身であるMDLやAccelrys、Scitegicの時代から30年以上にわたって化学構造式を扱うソフトウェアを開発・販売しており、その間に蓄積されてきた化合物構造の自動発生に関するノウハウを生かすことで、GTDでは直感的な操作や設定によって希望するケミカルスペースを効率的に探索できるよう設計されています。また、複数のプロパティを同時に最適化する機能も特筆すべきものであると考えています。

 

– BIOVIA GTD導入によって期待される、コストおよび時間的な削減効果の具体値があればお教えください。

GTDを創薬研究に導入することで、従来では1プロジェクトあたり4,000化合物の合成が必要だったものが、3年間で1,000化合物以下に減らせる効果を期待できます。またリード最適化だけでも、6~10億円の費用削減が見込まれ、その空いたリソースを他に活用することにもつながります。

 

– GTDの展望について、今後強化したい機能や実装を目指す機能、対処すべき課題などを含めてお教えください。

まずは、化合物を評価する手法の拡張が挙げられます。現在は限られた統計手法による機械学習モデルによって化合物の特性を評価していますが、異なる統計手法の適用や、化合物の平面構造ではなく立体構造を考慮した評価方法、例えばタンパク質との相互作用を評価するドッキングシミュレーションなどを取り込んでいく予定です。

また提案された化合物の合成の容易さも改善ポイントであると考えています。現在でも様々な評価法やフィルタリングによって、いわゆるドラッグライクな化合物のみが提案されるようになっていますが、さらに進んで逆合成解析を行い、その化合物がどのように合成できるのか、そのコストも考慮して提案できるよう開発を進めています。

さらに、現在は低分子化合物のみがターゲットとなっていますが、将来的には生物製剤(タンパク質)や、新規材料のデザインにもスコープを広げる予定で、これによって製薬企業やバイオテクに対してはモダリティの多様化に対応する一方、異なる業界にも広く提案していきたいと考えています。

 

2. Medidata NEXT JAPAN 2022について

– 開催の狙い、主な対象者、イベントの特色、過去の実績などをお教えください。

ライフサイエンス業界を取り巻く環境変化に対応すべく、「テクノロジーの観点でどのように臨床開発をサポートしていけるか」をご紹介するメディデータ・ソリューションズのフラッグシップイベントです。製薬企業やCRO、SMO、アカデミア、その他医療機関関係者の方々を対象に実施しており、日本で本イベントを開催してから今年で9回目を迎えます。年々参加者が増え、オフライン開催時は500名を超えるお客様にお越し頂き、オンライン開催となったここ数年も900名以上の業界関係者の方々にご参加頂きました。

近年は臨床業界におけるデジタルトランスフォーメーションをキーワードに、テクノロジーが支える臨床業界の変革について、業界動向や製品の最新情報も交えながらご紹介して参りました。昨年は、国内でもDXへの注力が目立つ中外製薬様に「製薬におけるDXのあり方」についてお話し頂いたり、患者代表として様々なご講演をされている全がん連代表理事を務める天野様に、患者視点での「真の患者中心とはなにか」についてご講演頂きました。

参照)昨年のNEXTランディングページ:https://www.medidatanext.jp/

 

本年の目玉企画はどのようなものでしょうか?

2022年のNEXT JAPANは「臨床開発の現在地とさらなる進化への挑戦~真の患者中心の臨床試験を実現するテクノロジーとその先のイノベーション~」と題して、コロナ禍を経た分散型臨床試験(DCT)やデータとAIを活用した新しい臨床開発のあり方について焦点を当てます。臨床試験や製薬会社におけるDXの戦略として、攻めと守りの両軸でのDXを推進するアステラス製薬様に経営計画や基本方針、現在の取り組みなどについてご講演いただきます。

モバイルやセンサーデバイスを活用したDCTの本格化についての他、過去の臨床データとAIによる臨床試験実施の事例をご紹介します。合成対象群を形成するSynthetic Control Armを活用しながら、予測モデリングの開発によってAE(有害事象)が発生する因子を特定し、CAR-T治療をより有効的な治療法に改善していくことができる、といったものです。

また、研究過程においては機械学習とAI、バーチャルによるリード化合物の最適化を行い、実際の合成や評価等の実験サイクルにかかる時間やコストを大幅に短縮する創薬支援ソリューション「BIOVIA GTD」をご紹介します。このほか、先ほど言及したPipeline Pilotの紹介セッション、電子実験ノート(BIOVIA Notebook)を導入頂いたバイオベンチャー企業である「株式会社メトセラ」の事例講演なども予定しています。

「臨床開発の現在地」について考え、新しい時代に向けた臨床開発のさらなる進化への挑戦について皆様とともに考える機会としてMedidata NEXTを開催致します。

※ Medidata NEXT JAPAN 2022の参加登録はこちら(参加無料)。

 

– イベント参加に伴う他の特典があれば、お教えください。

ご希望の場合、NEXTとは別に、今後開催予定の製品個別のワークショップへのご参加機会をご提供できます。ワークショップでは、今後導入加速が期待されるソリューションについて、他社様も交えて意見交換を行い、各社で抱える課題の共有やユースケースなどを通してベストプラクティスなどを検討する場となります。他社の課題や成功例を直接聞けるだけでなく、共通の課題認識をとおして弊社ベンダーも含めた解決の糸口を見つける良い機会となりますので、ぜひご活用ください。

 

– 最後に、本イベントの今後の展望についてもお教えください。

引き続き臨床業界におけるトレンドや展望などをテーマに、製品アップデートや事例などをご紹介していきます。さらに今後は、ダッソー・システムズにおけるライフサイエンス事業を担う一員として、本イベントも、研究開発〜製造〜上市まで一連の創薬プロセスを網羅したイベントとして成長していく予定です。

 

– ありがとうございました。本イベントのご盛況をお祈りするとともに、今後の新しい取り組みをお伺いできることも楽しみにしております。

 

 

【メディデータについて】

メディデータは、より多くの患者さんの希望を実現できるよう、ライフサイエンス分野におけるデジタルトランスフォーメーションを推進しています。新しい治療の価値最大化、リスク最小化、アウトカム最適化のために、製薬企業、バイオテクノロジー企業、アカデミア、医療診断・機器メーカーなどが日々取り組んでいる研究において、エビデンスを見出し、新たなインサイトを獲得できるよう支援しています。メディデータが提供しているClinical Cloud Platformは、1,900社以上のライフサイエンス企業や団体に採用され、100万人以上の認定ユーザーが利用しており、臨床開発、コマーシャルさらにはリアルワールドデータの活用において世界で最も使われているプラットフォームです。メディデータは、米国ニューヨークに本社を置く、ダッソー・システムズ(ユーロネクスト・パリ:FR0014003TT8、DSY.PA)の傘下のグループ企業であり、世界各国に拠点を置き、各国またはグローバルでの臨床試験ニーズにお応えしております。より詳細な情報はwww.medidata.com/jp、LinkedIn / Facebookの日本語公式アカウントページなどをご覧ください。

 

【ダッソー・システムズ について】

ダッソー・システムズは3DEXPERIENCEカンパニーとして、人々の進歩を促す役割を担います。当社は持続可能なイノベーションの実現に向けて、企業や人々が利用する3Dのバーチャル コラボレーション環境を提供しています。当社のお客様は、患者、市民あるいは消費者のために世界の持続可能性を高めるべく、3DEXPERIENCEプラットフォームとアプリケーションを使って現実世界のバーチャルツイン・エクスペリエンスを生み出し、さらなるイノベーション、学び、生産活動を追求しています。ダッソー・システムズ・グループは140ヵ国以上、あらゆる規模、業種の30万社以上のお客様に価値を提供します。より詳細な情報はホームページ、 https://www.3ds.com/ja(日本語) 、https://www.3ds.com(英語)をご参照ください。

3DEXPERIENCE、Compassアイコン、3DSロゴ、CATIA、BIOVIA、GEOVIA、SOLIDWORKS、3DVIA、ENOVIA、NETVIBES、MEDIDATA、CENTRIC PLM、3DEXCITE、SIMULIA、DELMIA およびIFWEは、アメリカ合衆国、またはその他の国における、ダッソー・システムズ (ヴェルサイユ商業登記所に登記番号B 322 306 440 で登録された、フランスにおける欧州会社) またはその子会社の登録商標または商標です。

TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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