米ペンシルベニア大学医学部のチームが開発したAIツール「iStar(Inferring Super-Resolution Tissue Architecture)」は、がんの精密病理診断に画期的な進歩をもたらすことが期待されている。このツールは、病理標本から得られる遺伝子活性の情報を予測し、がん手術における切除範囲の迅速診断や、がん免疫療法への治療反応予測を可能にする。
Nature Biotechnologyに発表された同研究では、「空間トランスクリプトミクス(Spatial transcriptomics)」という、組織の位置と構造に紐付いた情報から遺伝子の活性を測定する新たな解析手法を基盤として、iStarを開発している。特に、がんの辺縁に現れる免疫細胞の集合体「三次リンパ様構造(tertiary lymphoid structures)」に着目し、患者の治療反応や予後を予測する新たなバイオマーカーとして捉えている。
iStarの特筆すべき点はその速度にある。使用した乳がんデータセットに、iStarはわずか9分間で解析を完了しており、最も優れた競合ツールでも同様の解析に32時間以上を費やしたことから、その圧倒的な迅速性を強調する。研究を率いるMingyao Li博士は、「iStarのスピードは、膨大な空間データを短時間で再構成することを可能にする」と述べた。研究チームでは同ツールの有効性を、乳がん、前立腺がん、腎がん、大腸がんなど複数のがん種で評価し、将来的に病理医の診断能力を強力にサポートするよう開発を進めている。
参照論文:
Inferring super-resolution tissue architecture by integrating spatial transcriptomics with histology
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