医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例AI心電図―性別特異的な心血管リスクを可視化

AI心電図―性別特異的な心血管リスクを可視化

近年のAI研究の進化により、心電図や心エコーにAI技術を組み合わせることで、多くの有用な知見が得られることがわかってきている。このほど英インペリアルカレッジロンドンは、AIを用いた新しいスコアで、心電図から性別特異的な心血管リスクを評価する研究The Lancet Digital Healthに発表した。

従来の心血管リスク評価においては、性別を層別因子とする際に「男性・女性」の二値変数として扱い、一般に女性の方が男性よりもリスクが低いとされてきた。一方で本研究チームは、より個別化した評価が必要であると考え、AIを用いて心電図から予測されるスコアを元に心血管リスクを評価することを目的とした。

本研究では,米ベスイスラエルディーコネス医療センター(BIDMC)の110万件、英バイオバンク(UK)の4万件の心電図データで畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を訓練し、心電図から連続変数として性別を予測するAIモデルを開発した。性別の二値分類タスクに対しては、本モデルはAUROCが0.943(BIDMC)、0.971(UK)と高い精度を示した。その下で、患者の実際の性別とAIの予測値との差分をスコアとし、心血管リスクとの関係をCox回帰モデルで評価したところ、女性においてハザード比が1.78(BIDMC)、1.33(UK)となり、この差分が大きいほど心血管リスクが高まることが明らかとなった。一方、男性においてはハザード比の有意な上昇は見られず、女性のみにおいて、リスク層別化に役立つ可能性が示された。

著者らは「一般に低リスクとされる集団でも、AIを用いたスコアの再計算で心血管リスクを再評価することが可能となった。スコアに影響する遺伝的要因や背景の病態についても今後研究が必要である」と述べている。

参照論文:
Artificial intelligence-enhanced electrocardiography for the identification of a sex-related cardiovascular risk continuum:a retrospective cohort study

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R.A.
R.A.
東京大学医学部医学科。医学を学ぶ傍ら、機械学習や深層学習に関心を持ち、シンクタンク・AI企業でのインターンにて、データ分析や社会実装の現場を経験。テクノロジーを活かした知の発掘,医療の質向上の実現を目指している。
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