医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例生成AI設計の難病新薬、ヒト臨床試験で成果

生成AI設計の難病新薬、ヒト臨床試験で成果

特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis, IPF)に対する既存薬の効果は進行抑制にとどまっており、新たな治療標的および治療法の開発が求められている。近年、生成AIを活用した創薬は急速に発展しているものの、AIが発見・設計した薬剤が実際にヒト臨床試験で成果を上げた例はこれまでほとんどなかった。こうした中、中国の研究チームはAIを用いてIPFの新規治療標的を同定し、迅速な小分子阻害薬の創製に成功した。AIの活用により標的発見から第1相臨床試験の完了までを30ヶ月未満という異例の速さで達成している。

Nature Medicineに公表された論文によると、研究チームは、生成AIを用いてTraf2 and Nck interacting kinase(TNIK)をIPFの新たな治療標的として同定し、さらにその阻害薬となる低分子化合物「rentosertib」を設計した。本薬剤の有効性および安全性を検証するために、中国の21施設でランダム化第2a相試験を実施した。IPF患者71例を対象に、30mgを1日1回投与、30mgを1日2回投与、60mgを1日1回投与、およびプラセボ群に無作為に割り付け、12週間投与した。主評価項目である治療関連有害事象の頻度は各群間で大きな差は認められず、安全性は概ね良好であった。副次評価では、60mg群において努力肺活量(Forced Vital Capacity, FVC)が平均98.4mL増加し、プラセボ群の減少(-20.3mL)と対照的に改善傾向を示した。

本研究は、AIが標的探索と薬剤設計の双方を迅速に行い、その設計薬が短期間で第2相臨床試験に移行した重要なマイルストーンである。研究者らは、「より大規模かつ長期の国際共同試験に進み、治療効果の持続性および臨床転帰の改善を検証したい」と述べている。

参照論文:

A generative AI-discovered TNIK inhibitor for idiopathic pulmonary fibrosis: a randomized phase 2a trial

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Kazuyo NAGASHIMA
Kazuyo NAGASHIMA
長島和世 群馬大学医学部卒(MD)、The University of Manchester(MPH)。WHO/EMROにて公衆衛生対策に従事。2025年度より、アラブ首長国連邦にて、プライマリーケア診療。
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