視神経乳頭の構造変化が緑内障の進行に深く関わることは知られているが、個々の眼に固有の形態的特徴がどのように生体力学的応答へ影響するかは十分に解明されていなかった。中国とシンガポールの研究チームが、光干渉断層計(OCT)画像から自動的に患者固有の有限要素(FE)モデルを構築したうえで、視神経乳頭内部の篩板の変形を大規模に解析し、この成果をNature PortfolioのEye誌に報告した。
研究チームはまず、154例の健常眼と170例の緑内障眼をOCTスキャンから、視神経乳頭の網膜・脈絡膜・強膜・篩板の4組織をディープラーニング(nnU-Net)を用いて自動抽出した。セグメンテーション精度(Dice係数)は網膜で0.96、脈絡膜で0.89と高精度であった。続いて抽出した形態パラメータを基に分割された物理シミュレーション用3Dモデル(FEモデル)を作成し、15 mmHgの眼圧負荷下で篩板のFEシミュレーションを行った。統計解析では、緑内障眼は健常眼より篩板深度が深く、篩板曲率が大きいなど顕著な形態差が確認され、年齢・性別調整後には緑内障群で篩板ひずみが有意に低下することが示された。また、機械学習(Random ForestとSHAP解析)の結果、ひずみ予測に最も寄与する因子として、従来注目されていた篩板深度だけでなく「前篩板深度(Pre-lamina depth)」がトップに挙げられた。
研究チームは、形態変化が篩板ひずみに及ぼす影響は複雑な非線形関係にあると指摘している。今回の自動化パイプラインは、従来は労力的に不可能だった大規模かつ患者固有の生体力学解析を可能にし、緑内障における形態的バイオマーカーの探索を加速する可能性がある。
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