近年の医療AI研究はシステムの精度ばかりではなく、「臨床環境で実際に機能するか」「導入の弊害は何か」を明らかにすることに焦点が当てられるようになり、実臨床導入を見据えた現実的な動きが加速している。中国・首都医科大学などの共同研究チームは、複数の網膜疾患を識別する深層学習システムを構築し、実臨床における有効性の程度を評価する大規模試験の成果をまとめた。研究成果はJAMA Network Openからこのほど公開されている。
チームの研究論文によると、12万枚を超える眼底写真に基づき、10の網膜疾患を識別する深層学習モデルを構築した。これらをまとめたAIシステムはRetinal Artificial Intelligence Diagnosis System (RAIDS) と名付けられ、複数の病院および健診センターで前向きにその臨床的有効性が検討された。11万人に及ぶ患者から20万枚を超える眼底画像を取得し、RAIDSによる網膜疾患識別を行ったところ、10疾患について95.3-99.9%の識別精度を示していた。また、これらの精度は医療機関の所在地による差はみられなかったほか、10疾患のうち7疾患(糖尿病性網膜症・緑内障・黄斑円孔・黄斑上膜・高血圧性網膜症・有髄線維・網膜色素変性症)については、診療経験が豊富な上級専門医と比較しても同等またはより優れた検出感度を示していた。さらに、眼科医単独で行う既存の診断ワークフローに対して、RAIDS導入は96-97%の時間短縮を実現していた。
著者らは「網膜疾患診断に関する深層学習システムは、リアルタイムで10種類の網膜疾患を正確に見分け、高い臨床的有効性を示した」とするとともに、この技術が、過疎地における専門医不足を解消することに大きな役割を果たす可能性について強調している。
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