生涯の3分の1以上を費やす”睡眠”は、健康の維持・増進にとって非常に大きな因子となる。近年の研究から、睡眠時間の短いことが糖尿病や高血圧を始めとする慢性疾患発症、さらにうつ病などの精神疾患発症との関連が深いことも示唆されている。また、睡眠の質が低いこと(中途覚醒が多いなど)や過多睡眠の健康影響についても研究の蓄積が進み、適切で良質な睡眠の確保は、疾患予防の観点と併せてその重要性を高めている。
スイス・ベルン大学の研究チームは、睡眠の自動スコアリング手法に関するレビュー論文を、このほど学術誌Sleep Medicine Reviewsに公表した。現在の代表的な睡眠評価手法は、ポリソムノグラフィ検査と呼ばれ、睡眠中の脳波や血中酸素飽和度、呼吸運動センサー、心電図などを組み合わせたものだが、検査結果の正確な解釈と臨床判断には専門医の目が欠かせない。昨今の深層学習技術の普及・向上に伴い、AIを利用した全自動スコアリングシステムの開発は急速に進んでいるが、いまだ実臨床の場における利用はほとんど見られない現状が指摘されている。これは日常臨床へのルーチン導入に多くの壁があるためで、今後は精度向上や妥当性検証を重ねるのみならず、臨床利用を前提とした「容易な導入と利用が可能で、十分に非侵襲的な」システム開発が望まれている。
睡眠の評価と管理が医学的に軽視される時代は過去のものとなったが、依然として正確な睡眠評価には専門的設備と専門医の存在が重要で、健常者を含む一般市民にとって身近なものとはなっていない。一方、医療AIの進展や、ウェアラブルデバイスなど小型端末の高機能化は、睡眠評価を激変させる可能性を多分に持っている。これは気軽な日常測定を通して、エビデンスに基づいた高精度な疾患予防を実現するもので、個別化医療達成への一助としても期待が大きい。