放射線科医のルーチンワークに、がん患者のCTスキャンから腫瘍の病勢進行を評価する作業がある。手動で腫瘍の大きさを測定し、過去の画像と比べ、読影報告書を記載するという従来のワークフローは、AIの支援で改善余地があると考えられている。2020年5月末に米国の臨床腫瘍学会(ASCO: American Society of Clinical Oncology)の年次総会が開催され、放射線科医の作業負担を劇的に改善する研究がアラバマ大学バーミングハム校(UAB: University of Alabama at Birmingham)を中心とした研究グループから発表された。
UABのニュースリリースによると、支援用AIとして用いられたのは、同大学発スタートアップ AI Metrics社の「AI Mass」というソフトウェアである。画像上の腫瘍を1回クリックすることで大きさを自動測定し、腫瘍の解剖学的な位置を自動でラベル付け、経時的な腫瘍の追跡を行うことができる。さらに報告書作成までをAIが支援するという。ASCOで発表された多施設共同研究では、診断精度25%向上・主要エラーを99%減少・現作業を2倍高速化・読影者間の所見一致度を45%向上させたと報告している。
AI Massは放射線科医にかかる日常業務の負担に明確にフォーカスしている。研究の一環として行われた調査からは、同業者より高く評価され好まれるソフトウェアとなっているという。次第に増える複雑で多量の画像検査も相まって、放射線科医らにおける燃え尽き症候群の発生も深刻化する。AI支援で読影医の能力を拡張することが新しい標準となり、特に業務エラーの減少によってがん患者にとっても好ましい影響が示されていくに違いない。