マラリア原虫が蚊によって媒介される感染症「マラリア」は、近年、世界で年間の症例数2億人以上、年間の死亡者は40万人以上を記録し続けていた。その原因・予防・治療が確立されてきた現代でも、いまだ致死的な感染症として広大な影響力を維持し、世界的な対策の進展は止まっていた。なかでもインドは総人口の85%がマラリア危険地帯(いわゆるマラリア・ベルト)に居住しており、世界最大のマラリア好発国として疾患が人々に与える負荷は極めて強い。
インド工科大学(IIT)ボンベイ校のリリースによると、同校の研究グループによる新研究が「マラリア患者の血中タンパク質を機械学習モデルで解析し、マラリア原虫の種の識別・デング熱との鑑別・バイオマーカーによる重症度分類の可能性」を示したという。同研究はNatureの姉妹学術誌Communications Biologyに収載された。マラリアの原因として筆頭に挙がる2種の原虫(Plasmodium vivaxおよびPlasmodium falciparum)の鑑別や、未確立である予後予測のバイオマーカー探究で、マラリア好発地域における医療の質の向上が期待される。
研究成果で得られたタンパク質の同定結果から、マラリア重症症例を検出し、デング熱と鑑別する迅速診断キットの開発が着手されている。血液標本の顕微鏡観察からマラリア原虫を確認する古典的な診断法は流行期における医療の負担が大きく、従来の迅速診断キットでは感度や特異度が課題とされていた。AIによる手法が、近年足踏みし続けていたマラリア対策進展の鍵となるだろうか。