建材などに使用されてきたアスベスト(石綿)関連の健康被害として、肺の悪性腫瘍である「中皮腫」がある。スコットランドでは、英国の主要産業として造船・建設でアスベストが多く使用されてきた経緯から、国際的にも中皮腫の発生率が高い地域として知られる。そのスコットランドを拠点としたCanon Medical Research Europeとグラスゴー大学は、中皮腫のCT診断に焦点を当てたAIツールを開発している。
グラスゴー大学のリリースによると、中皮腫のCT診断AIは腫瘍専門医の教師データから学習し、病変の検出と測定を正確に行う。同ツールは、がんに対するイノベーション技術に資金提供するスコットランド内のプログラム「Cancer Innovation Challenge」の一環で開発され、検証結果の発表を予定している。中皮腫は、一般的な腫瘍のように球体ではなく、組織表面上で「皮」のように複雑な成長をみせるため、CTでの診断が難しいがんの1つとされる。また、中皮腫の治療法は限定的で、今後の新規臨床試験も不可欠であるため、AIによる腫瘍検出・測定の効率化および自動化は臨床試験をより低コスト・短時間・高精度にする可能性も期待されている。
Canon Medicalの主席研究員であるKeith Goatman氏は「AIのスピードと精度は中皮腫の治療に幅広い影響を与える可能性があります。正確な腫瘍体積の測定は手作業では時間がかかり過ぎます。測定の自動化は腫瘍体積のわずかな変化も検出し、新しい治療法への臨床試験の道を拓くでしょう」と述べている。アスベスト使用は既に各国で禁止されたものの、中皮腫患者の発生では数十年という単位での時間差をみせている。英国のみならず、日本における中皮腫による死亡数も増加の一途であり、国際的に死亡者数のピークはまだ先にあるとも予測される。当該AIツールではその先を見据えた開発が進められている。