有機化合物の合成経路探索にコンピュータを使用するという発想は、数十年以前よりあった。「逆合成解析」と呼ばれる設計手法を考案した米化学者・Elias James Corey氏が、ノーベル化学賞を受賞したのは1990年のことだ。近年のコンピュータ処理速度向上とAI技術の飛躍的な進展により、理論は現実として花開いている。
Digital Trendsの報道によると、韓国蔚山科学技術大学校のBrtosz Grzybowski教授らが開発したChematicaと呼ばれるAIプラットフォームでは、約7万に及ぶ化学合成規則を含め、化学的相互作用がどのように起こるかについての膨大なデータがコードされているという。アルゴリズムは同種の化合物を得るための、無数の合成経路を探索可能で、既存の特許を回避した医薬品合成も可能になるとのこと。
チェスや囲碁におけるAIの最適経路探索能は、既に人を上回っているとみる向きが強いが、同様の議論は当該分野でもある。Grzybowski教授は「専門家がアルゴリズムと同等の合成経路を導くことはもちろん可能だろう。ただし十分な時間が与えられるならばだ」とし、経路探索の効率性においてはAIに分があることを強調する。