医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例疾患治療へのAI活用事例うつ病治療を変革する脳内バイオマーカー研究

うつ病治療を変革する脳内バイオマーカー研究

世界保健機構(WHO)によれば、全世界で約2.8億人がうつ病に罹患しているという。抗うつ薬の治療効果が全ての患者には及ばないという課題が残る一方で、米リーハイ大学の研究チームは、機械学習技術を利用して脳内バイオマーカーを確立し、より個別化されたうつ病治療の道を拓こうとしている。

この研究は、米国立精神衛生研究所(NIMH)から大規模な助成金を獲得して行われている。チームは、患者のfMRI画像データと脳波を抗うつ薬治療前後で収集し、二重盲験無作為化比較試験を通じて得たデータから、薬物治療の効果を客観的に評価するためのバイオマーカーを特定しようとしている。この手法により、それぞれの患者がどの程度抗うつ薬に反応するか、あるいは反応しないかを予測できる可能性がある。特に同研究では、認知ワーキングメモリと感情制御に関連する脳内ネットワークの相互作用に焦点を当て、ここから新たなバイオマーカーを検出しようとしている。

AIが提示するこれらのバイオマーカーは、現在の試行錯誤的なうつ病の治療戦略を置き換える可能性を秘めており、それぞれの患者に対して個別化された治療アプローチを提供することが期待されている。研究を率いるリーハイ大学のYu Zhang氏は「従来のうつ病診断と治療は、主観的な症状を組み合わせてきたが、患者ごとにバラつきは大きい。我々が目指すのは、脳の機能障害をより適確に捉える客観的なバイオマーカーを構築することだ。本研究により、メンタルヘルスの状態は再定義され、大きなブレークスルーがもたらされるだろう」と語っている

関連記事:

  1. うつ病自己管理にAIチャットボットは有効か?
  2. 位置情報利用モバイルゲーム「Pokémon GO」は抑うつを改善するか?
  3. 青少年の抗うつ薬治療効果を予測するAI研究
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事