抗菌薬の発明で人類は感染症に勝利したかと思われた。しかし、抗菌薬が使われ過ぎたことで薬の効かない耐性菌が増え、死亡率・医療費・入院期間の増加が問題となっている。WHOは現代医学における最大の脅威として薬剤耐性菌について警告する。そのような中、イスラエルの研究者たちが開発したAIアルゴリズムでブレイクスルーが期待されている。『個人の病歴で尿路感染症の耐性菌を予測する』機械学習ベースの研究成果が、2019年7月4日Nature Medicineに報告された。
International Business Timesによると、研究グループは70万件の尿路感染症における細菌培養結果、および過去10年間で500万件の抗菌薬購入履歴から、耐性菌発生と推奨される抗菌薬を予測するアルゴリズムを開発した。1年間の試験で、現在の標準治療よりも大幅に治療のミスマッチを減少させることがわかった。治療の有効性を高めるだけではなく、適切な抗菌薬が短期間かつ最小限使われることで将来の耐性菌出現を防ぐことも期待されている。更には、新しい抗菌薬開発に役立つ可能性も示された。
これまで軽い膀胱炎などの状況では、細菌培養と薬剤感受性試験が行われずに、データに基づかない『経験的』な処方が繰り返されてきた。最初の抗菌薬が効かなければ、根拠なしに次の種類の処方を試す。そのような乱雑な抗菌薬使用によって、有効な薬の選択肢はどんどん狭まってきた。今回のAI応用研究は、考え方そのものは感染症治療の基本に忠実である。膨大なデータ利用と、個別化されたAI予測モデルによって、抗菌薬という貴重な医療資源をもう一度私たちの手に取り戻そうとする未来志向の研究と言えるだろう。