革新的な起業家であるイーロン・マスク氏は、かねてよりAI脅威論を提唱する姿勢を強めていた。彼の立ち上げた企業のひとつNeuralink社が2年の開発期間を経て、17日に詳細を発表したのが、脳とコンピュータをつなぐ新システムである。ニュースは瞬く間に駆け巡り、イーロン・マスク氏ならではのビジョン、ヒトの知能を拡張することでAIに対抗あるいは共存する未来像が現実のものとなりつつあることに、世界中が衝撃を受けた。
速報のひとつとしてThe New York Timesでは、同社の発表をBaby Steps(壮大な目標への小さな一歩)と見出しを掲げた。その未来像をSF小説『Neuromancer』(電脳空間をテーマとしたサイバーパンクの代名詞的作品)になぞらえて紹介している。超極細のセンサープローブ『N1 Implant』は脳の血管や神経に損傷を与えないよう直接埋め込まれ、コンピュータと情報をやり取りする。専門的な脳外科手術に頼り切ることがないように独自開発された手術用ロボットについても同時に発表された。2020年内にスタンフォード大をはじめとした多施設での臨床試験について申請が行われたという。
医学的には脳への埋め込みはかねてより行われてきた技術の延長線上にあり、四肢麻痺の患者などへの応用が期待されてきた。脳に埋め込まない非侵襲性を目標とするBrain-Computer Interface(BCI)技術も進められており、脳波によるロボットアーム操作(過去記事)は先日話題になったばかりである。イーロン・マスク氏のNeuralink社は、先進的なセンサーを使用してはいるものの、脳に直接埋め込むという選択肢をとっている。ある意味では確実かつ早期に技術を達成させるための強い野心がうかがえる。しばらくはこのニュースについて続報への関心が尽きないだろう。