戦場での生死をAIが判断する

トリアージとは、患者の疾病・外傷などの重症度に基づいて行われる「選別」のことで、特に災害時など負傷者多数の現場において重要となる観点だ。戦場における(負傷兵に対するトリアージを含めた)救護活動は、これまで衛生兵の経験と直感に依存するものであったが、AIの台頭はこのあり方を大きく変えようとしている。

米メディア企業Atlantic Mediaが運営する「Defense One」の報道では、米軍外科研究部門を率いる医師Jerome Buller中佐へのインタビューを紹介している。兵士に装着した生体センサーから得られるデータに、個人の医療データやトレーニングデータ、ARレンズを通した視覚情報などを組み合わせることで、衛生兵は十分に安全な距離を取ったまま、戦場における兵士の健康状態を正確に評価できるようになるという。このことは、実際に患者を診察する前に詳細な情報を取得できることを意味し、戦場におけるトリアージをより効率的に実施することができるようになるという。

米軍は高度に構築された外傷データベース(DOD trauma registry)を持ち、特定の部位に特定の外傷を負った場合の転機についても非常に豊富な参照情報がある。リッチなデータベースと機械学習技術が戦場におけるトリアージの質的転換をもたらそうとしているが、限られたリソースを最大限有効活用するこの技術は、医療現場における患者モニタリングと介入レベルについての医学的な意思決定と本質を同じくしており、一般市民にとって必ずしも「別世界の技術発展」というわけではない。

過去記事「戦場の外傷患者を救うAIテクノロジー」

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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