医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例前立腺がん病理診断にAIの眼を - スウェーデン カロリンスカ研究所

前立腺がん病理診断にAIの眼を – スウェーデン カロリンスカ研究所

スウェーデンにおいて、前立腺がんは世界各国同様に男性がん死亡の主要ながん種である。前立腺がんでは針生検による病理診断が重要な役割を果たすが、その業務を担う病理医の不足もスウェーデンでは課題となっていた。また、前立腺がんの病理診断の悪性度・グレード分類にはある程度の主観性があり、同じサンプルでも別の病理医ではスコアづけに違いがでることがある。これらの課題を解決するため、AIシステムによって前立腺がん病理診断とグレーディングを行う研究が、スウェーデンのカロリンスカ研究所(医科大学)のグループを中心として学術誌The Lancet Oncologyに掲載された。

Karolinska Institutetからのリリースで、同研究の成果が紹介されている。スウェーデン人1200人・6600枚あまりの前立腺生検標本でディープニューラルネットワークはトレーニングされた。システムの診断精度は国際的な23名の泌尿器系病理学者と比較されている。結果としてAIシステムは、がん悪性所見の有無(ROC曲線0.997)および針生検サンプル内でがんが占拠する長さの診断(ROC曲線0.987)について優れた診断精度を達成した。前立腺がんの悪性度を示す国際標準的なグリソンスコアについては、病理医たちとAIシステムは同等の水準を達成している。

同研究のAIシステムは、良悪性の診断・サンプル内のがん長について診断作業タスクが自動化され病理医の負担を減らし、国際的なエキスパートと同等のグレーディング能力がいわばセカンドオピニオンとして機能することを目指している。臨床現場でシステムを検証するため、欧州内9カ国での多施設共同研究が進行中で2020年末までの完了を予定している。研究を主導したカロリンスカ研究所のMartin Eklund准教授は「診断品質の改善・低コスト化・公平なケアについて革新を期待しています。AIは人間の病理医に代わるものではなく、見逃しを防ぐセーフティネットとして機能し、グレーディングの標準化を支援します。一方で、病理医が根本的に欠如している世界の一部の地域では診断を代替する可能性があるでしょう」と語った。前立腺がんのAI診断について日本では理化学研究所からの成果(過去記事)が注目されており、国際的に同様の流れが進む期待の領域といえる。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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