自宅外での活動自粛、対面での各種集会の中止など、新型コロナウイルス感染症による社会情勢への強い圧力が続いている。いわゆるインフォデミックInfodemic(過去記事)によって、情報の非対称性や格差が更なる混乱を招き、世代間の軋轢や不満も増している印象がある。我先にと物資の買い占めに走る姿は最たる例だろう。浮き彫りにされた社会的孤独にAIはどのように貢献できるのか。
英BBCの報道では、高齢者の孤独対策にAIを用いた音声技術が紹介されている。スウェーデンは全世帯の半数以上が一人暮らしであり、欧州で最も高い割合と言われる。その孤独感に対処するため、専用設計の音声アシスタントとスマートスピーカーの社会実験が同国では始められた。スピーカーはユーザーの思い出に対して有意義な会話ができる。例として78歳の高齢者の「世界中を旅した」という会話のきっかけに、スピーカーは「スウェーデンとその他の国でどのような人間関係の違いがありましたか?」と続き、そのスウェーデン人は「個人主義的で独立的な私たちの性格に焦点が当たる」と会話を続け、同国の生活で困難な側面を指摘した。
社会実験に携わっているスウェーデンのエネルギー会社Stockholm ExergのThomas Gibson氏は「彼ら高齢者が自分の話を共有されることを本当に喜んでいたことに驚きました。相手が音声アシスタントやスピーカーであろうとまったく自然なことでした」とインタビューに答えている。同社はこれら会話の一部をポッドキャストで視聴できるようにすることで「世代間差別の解消と社会的包摂: social inclusion(弱者を援護し社会の一員として取り込み支える理念)」につながることを期待している。感染拡大によるストレスで露呈した独善的なヒトの弱さに対して、人々が英知を結集し平穏を取り戻すことができるか、その瀬戸際に立たされているのではないだろうか。