Biofourmis CEO独占インタビュー

Biofourmisは、「ウェアラブルバイオセンサー」と「AIを活用した健康解析プラットフォーム」で知られるシンガポールベースのヘルステックスタートアップだ。現在、BiofourmisはCOVID-19の急速な感染拡大に伴い、プラットフォームへの機能付加を介して新型コロナウイルス感染症対策を強化している。彼らの取り組みは他国にも取り入れられ、特に現在注力する香港でのプラットフォームの導入・展開と、その効果には大きな注目が集まっている。

今回、同社CEOであるKuldeep Singh Rajput氏に対し独占インタビューを行ったので、その内容を紹介したい。

 

– この度はインタビューの機会を頂き、まことにありがとうございます。まずは貴社についてと、現在進行中のプロジェクト群について教えてください。

我々に関して最も重要な点は、Biofourmisがデジタルセラピーを掲げる企業(digital therapeutics company)であることです。テクノロジーによって、多種多様な慢性疾患を持つ人々が健康に、より良い生活を送れるようにすることが我々の最大の使命です。私たちは、Biovitalsと呼ばれる標準化されたモジュール式プラットフォームを構築しました。これは、センサーとモバイルアプリケーションを使用し、優れたユーザーエクスペリエンスを通じて患者からアクティブデータとパッシブデータを多面的に収集する機能を備えています。また、患者の心不全イベントを適切に予測するため、多くのデータサイエンスおよび機械学習技術を取り込んでいます。これは、医療ワークフローに最適化された治療を加えることに役立つでしょう。

 

– 独自プラットフォームについて詳しくお教え頂けますか?

Biovitalsプラットフォームは、多くの医学的領域に対応することのできる、効果的なプラグアンドプレイソリューションです。企業全体としてBiofourmisは、主に心血管疾患と悪性新生物(悪性腫瘍)に焦点を当てています。当社の主力製品であるBiovitalsHFは、心不全患者向けに設計されました。これは、妥当なガイドラインに基づく治療を受けられている者は20%未満であること、そのうち、最適な治療薬を選択されているのは心不全患者の1%未満のみであること、などが背景にあります。事前に心不全イベントを予測する機能を備えたBiovitalsHFは、適切なタイミングで適切な用量を示すことができます。患者はオンボーディング後、バイオセンサーとモバイルアプリケーションと共に自宅に帰ります。その後、AIを活用したBiovitals Analyticsプラットフォームによって、データを継続的にキャプチャ・処理するなかで、心不全イベントの初期兆候を検出することができるというものです。

私たちのアルゴリズムは経時的変化を捉え、最適化された投薬量を導くことができます。この情報を臨床医に提供することで、正しい臨床判断をサポートしています。BiovitalsHFは現在、複数の病院システム・保険会社・製薬会社で実際に導入・使用されています。また、私たちは最近、Novartisとの提携を公表しました。今後、Entresto(心不全治療薬で、ネプリライシン阻害薬とARBの配合剤)を処方された患者は、Everionウェアラブルデバイスも受け取るということになります。これは、生活の質向上を含めた患者中心の医療ををもたらすだけでなく、通院数の減少に伴う医療経済の効率化、および医療の質的向上に伴う死亡率の低下にも資するはずです。

 

– 貴社は現在、香港における疾病モニ​​タリングプログラムを展開していますが、その詳細とBiofourmisが果たす役割についてもお教えください。

この疾病モニタリングプログラムは、香港保健当局と提携して実現したもので、香港大学とも協力して2つの主要なアプリケーションを通した展開を行っています。まず、Biovitals Sentinelプラットフォームは、隔離された個人をリモートでモニタリングするために使用されます。中国のCOVID-19患者の29%は医療従事者と言われ、臨床医は孤立し、感染リスクの著しく高い危険な状態です。Biofourmisは単一プラットフォームで、ビデオ会議を介し隔離された個人をリモートモニタリングすることができます。さらに、患者は感染して症状が現れるまでに5~6日かかりますが、この期間にも十分な感染力を持ちます。隔離された個人に、体温・呼吸数・心拍数など複数の生理学的パラメーターを捉えるバイオセンサーEverionを提供することで、データをBiovitals Analyticsエンジンで処理し、微妙な生理学的変化を検出することができます。つまり、感染および症状の進行具合をモニターできるということになります。また、現在ウイルスの詳細についてほとんど知られていないことを考えると、多次元データ(臨床所見・採血結果・画像データ・生理学的データなど)をキャプチャし、AIを使用してこれらのデータソースを組み合わせることで、疾病の詳細を知ることができるようになる可能性もあります。

 

– リモートモニタリングプラットフォームは各種先行システムが存在し、ある程度機能の重複も見られますが、貴社プロダクトが他社の従来型システムと決定的に異なる点は何ですか?

Biovitals Sentinelは、単純なリモートモニタリングプラットフォームではなく、単一のデバイスであるEverionを使用して、24時間年中無休で20のマルチパラメータバイタルサインを継続的に取得することができます。Biovitals Analyticsエンジンは膨大な量のデータを使用し、患者が症状を示す前であったとしても、微弱な生理学的信号をリモートで検出することができます。これにより、治療プロセスがより積極的なものとなり、予防・検査・治療などあらゆるフェーズにおける早期介入を容易に実現することのできる個性的なプラットフォームと言えます。

 

– 私たちは医学者および臨床専門家として、COVID-19に感染した人の実数は、日本でもある程度過小評価されていると考えています。その場合、より厳格で広範な感染拡大抑止策と手洗いうがいを含む感染防御行動の更なる徹底が重要となりますが、貴社の革新的ツールを活用してこの国を支援するためのアイデアなどお持ちですか?

この状況は、日本だけでなく世界中で見られています。たとえば、米国で確認されたCOVID-19症例の数もまた、大きく過小評価されています。今月中旬段階では1日あたり3000人が診断され、確認された症例数だけでもわずか24時間で倍増しました。 1日6000件以上の新規発症と累計100人の死亡者がみられる現在(3月30日時点では、米国での感染者は14万人・死者2400人となった)、症状が現れるまで5~6日かかることも考え併せると、この感染症の背後にある科学を理解することが最も肝要です。臨床医は対症療法を中心に行っていますが、患者は感染初期の6日間で既に感染性があることが分かっています。これらの個人を初期段階から隔離し、微弱なシグナルを十分に早く取得できるようにすることで、さらなる感染拡大を防ぐことができると信じています。

 

– 弊メディアの読者層には、メディカルテックに強い関心を持つ実業家・研究者・臨床家・政府関係者を含め、多方面における多様な意思決定者を抱えています。したがって、日本での展開が視野にあるのであれば、読者の中でも支援・協力したいと考える団体は少なくないと思います。あなたが考える、日本における潜在的な協力者はどのようなグループですか?

私たちは、プラットフォームとソリューションの活用に熱心な政府機関や病院システムなどのパートナーを真剣に探しています。現在は、韓国・シンガポール・オーストラリア・米国などの国々でプログラムを実施するために政府と事前に話し合っており、数週間以内に複数の国でプラットフォームおよび各ソリューションを展開する準備があります。

 

– 最後に、プロジェクトの見通しと、今後のビジネスについて教えてください。

このようなパンデミックでは、「時間」が最も重要な要素となります。 Biovitalsプラットフォームのモジュール性により、非常に短い時間枠でCOVID-19の危機的状況に対し、プラットフォームを迅速に適合させることができました。私たちの目標は、できるだけ多くの人々と国々を支援することです。プロジェクトを拡大し、各国に変化をもたらすことを楽しみにしています。

 

– ありがとうございました。今後の展開に大きく期待しています。

 

聞き手:The Medical AI Times編集部(株式会社トウキョウアナリティカ内)

TOKYO analytica
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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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