GE HealthcareやSiemens、Philipsなど医療テックの巨人は、医療画像に関するAIアルゴリズム開発を独自に、またはサードパーティとの提携によって強力に推し進めている。ベンダーが最も苦労するのは、これらAIシステムの実臨床プロセスへの組み込みフェーズであり、場合によって達成までには非常に長い時間を要することになる。ただし、現在全世界が直面する公衆衛生学的危機 – 新型コロナウイルス感染症の蔓延 – においては、あらゆる規制と慣習を緩和し、新しい技術に大きなチャンスを与えようという流れもある。
新型コロナウイルス感染への確定診断にはPCR法が主として利用されているが、リソースの配置が限定されていること、検査自体の感度が低く偽陰性を多数生むなど、潜在的な問題点を複数抱えている。画像診断の補助的有効性は広く知られており、武漢の初期感染者の81例では、胸部CT所見として79%に両側の陰影を認めた。ここに、一定の精度と迅速さを両立できるAI画像診断が臨床現場を支援し得る理由がある。
カナダを代表する理工系大学・ウォータールー大学を中心とした研究チームは、胸部単純レントゲン画像からCOVID-19を識別するための深層学習モデルであるCOVID-Netを開発し、オープンソースのニューラルネットワークとして公開している。抗ウイルス薬やワクチン開発といった根本的対処法の探求に加え、眼前の患者を正しくふるい分ける手法の開発にも科学者たちは真摯に取り組む。ここに据えるべきはゼロリスク志向の強固な番人ではなく、事態を正しく評した柔軟な枠組みであるのかもしれない。