四肢と胸部6箇所の装着電極から、12の軸方向で心臓の電気的活動を解釈する12誘導心電図は、臨床現場で最も日常的な検査法のひとつである。これまでも古典的なアルゴリズムで検査結果は自動解析され、コンピュータによる報告が添付されてきた。しかしその解析は心電図機器メーカー各社によって異なる診断プログラムから、独自の記載法で診断名と所見が混在するなど様々な限界があり、結局のところ臨床判断は現場に委ねられてきた。
学術誌 Nature Communicationsに発表された「12誘導心電図のディープニューラルネットワーク(DNN)による自動解析」は、従来の自動解析の課題を克服して臨床現場に真の価値をもたらす可能性がある。スウェーデンのウプサラ大学のグループがブラジル現地機関の協力のもと、200万件以上のラベル付けされた12誘導心電図データセットを取得してDNNモデルを開発した。同モデルは6種類の異常(1度房室ブロック・右脚ブロック・左脚ブロック・洞性徐脈・心房細動・洞性頻脈)を検出するよう訓練された。達成した成果として、循環器内科のレジデント医を上回る認識精度で、F1スコア80%以上のバランスを有し、特異度99%以上を報告している。
近年、シングルリード心電図(1L-ECG)を解析するアルゴリズムの有用性が多数報告され、Apple Watchを代表とするような民生用製品での実用化が進んできた。臨床現場で主流の12誘導心電図に応用範囲を拡大し、検査結果の正確な解釈を可能とする研究アプローチは今後の自動解析のあり方に大きな影響を与えてゆくだろう。同研究チームは自動解析の発展によって、心電図を解釈できる専門医へのアクセスが乏しい所得レベルが低い地域の循環器疾患診療に大きな可能性をもたらすことを期待している。