医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例疾患治療へのAI活用事例肝細胞がんに対する「機械学習ベースの臨床的意思決定支援システム」

肝細胞がんに対する「機械学習ベースの臨床的意思決定支援システム」

肝細胞がん(HCC)の初期治療における実際の選択と、現在広く利用されているBCLC病期分類に基づく推奨項目の間には現実的な不一致がある。韓国・ソウルに所在する蔚山(ウルサン)大学校の研究チームは、有効な初期治療オプションと全生存期間を明示する「機械学習ベースの臨床的意思決定支援システム」の開発に取り組んでいる。

Nature Researchが刊行するオープンアクセスの電子ジャーナル・Scientific Reportsにて先週公開されたチームの研究論文によると、1,021人のHCC患者における診療記録を利用しこのシステムを構築したという。初期治療方法や生存状況に加え、治療開始前変数など61項目を抽出し、実際のモデル作成にあたっては21項目を利用した。各治療オプションに対して計7つの生存予測モデルを開発し、妥当性の検証試験においては、当該システムによる治療法の推奨と生存予測の点で優れたパフォーマンスを示したとのこと。

本研究は単施設研究で一般化可能性が限定的であること、移植術やラジオ波焼灼療法など一部の治療方法についてはサンプルサイズが非常に小さく解析結果が不安定であること、治療法選択の重要な因子である患者の嗜好が評価されていないこと、など明確な研究の限界を伴う。一方で、疾患単位の意思決定支援ツールにはAIの導入余地が大きく、今後も種々の検討が進められることは間違いない。本研究もその一例として今後のエビデンス構築に資することが期待されている。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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