米国では麻薬性鎮痛薬オピオイドの乱用が社会問題となり(過去記事)、手術後の漫然としたオピオイド多量服薬も依存につながる可能性が指摘されている。それらの問題に対して、認知行動療法のひとつ Acceptance and Commitment Therapy(ACT)で個人の認知プロセスに介入して心理的柔軟性を高め、疼痛治療を改善させる手法が模索されている。
米ペンシルバニア大医学部から学術誌 Journal of Medical Internet Researchに報告されたのは、整形外科の術後患者に携帯電話で自動メッセージによるACTを提供し、術後のオピオイド使用量減少と、痛みに関する患者報告アウトカムPatient-Reported Outcome(PRO)を改善させた研究である。骨折手術を受けた76名を2群に割付け、一方はチャットボットから術後2週間、1日2通、痛みの認知に介入するACT手法に基づくメッセージを受け取った。介入群では平均26.1錠のオピオイド使用で、対照群41.1錠と比較し使用量が約37%少なかった。痛みのPROスコアは介入群45.9点、対照群49.7点で有意なスコア改善を認めた。
自動プログラムからのメッセージは「痛みの感情が手術後に伴うのは正常であり、回復過程の一時的なもの」と言及し、鎮痛薬の使用に直接的な反対をせずに別のことを考える手助けをしていた。患者ごとにメッセージの個別化はされておらず、研究グループでは他の患者集団にも応用できる可能性が高いと指摘する。デジタル手法による痛みへの心理的介入が、オピオイド使用の減少という実用性を発揮したユニークな研究としても発展が期待される。