WHOの推計では認知症の罹患者数は世界で約5,000万人とされ、老人ホームのような高齢者施設における入居者の80%が慢性的な疼痛を抱えているとの試算もある。しかし認知症患者には自分の痛みを正確に伝えられない傾向があり、痛みが見過ごされたり誤解されるといった問題がある。
オーストラリア拠点のスタートアップ「PainChek」は、介護が必要な高齢者向けに設計された「AIによる表情分析で痛みのレベルを評価しスコア化するアプリ」を開発してきた。CNNでは同社について紹介している。介助者は対象者の顔を短時間の動画に記録し、その行動や発話に関する質問に回答すると、アプリ上のAIが痛みに関連するとされる顔の筋肉の動きを認識し、介助者の観察結果と組み合わせ、総合的な痛みのスコアを算出する。同社によるとアプリでの痛みの検出精度は90%以上を謳う。同社が2012年の開発開始から重ねてきた臨床研究の成果については、論文の一覧が公開されている(PainChek社Clinical Studies)。
オーストラリア政府は、国内の高齢者ケアホームがPainChekを採用する試験のため、2019年から2年間で最大500万豪ドルの資金を配分してきた。英国など欧州各国にもアプリは進出し、6.6万人から18万件の痛みの評価を行ってきたという。痛みをうまく伝えられない人の声を代弁するため、PainChekは表情分析AIアプリを世界中に届けようとしている。