認知症のひとつ「アルツハイマー病(AD: Alzheimer’s Disease)」は高齢社会の健康と福祉に多大な負担となっている。そして、念願と言えるADの治療薬開発の多くが有効性欠如か過剰毒性によって苦戦を強いられ、時間とリソースが消費されている。一方、短期間・低コストの利点で注目されているのが、既存承認薬の対象疾患を変えた再利用「ドラッグリパーパシング(ドラッグリポジショニング)」である(過去記事参照)。
米マサチューセッツ総合病院(MGH)のリリースでは、同病院とハーバード大学医学部の研究グループが取り組む「AI/機械学習手法によるADを対象としたドラッグリパーパシング(DRIAD: Drug Repurposing In Alzheimer’s Disease)」が紹介されている。同研究は学術誌 Nature Communicationsに発表されており、今後ADに対抗できる可能性のある既存承認薬の抽出を支援する機械学習フレームワークを提唱している。開発中のフレームワーク「DRIAD」は、ある薬剤が投与されたときに人間の脳神経細胞に何が起きるか測定し、薬物による変化が疾患重症度を示す分子マーカーと相関しているかを判断する。結果、脳神経細胞に有害な薬剤と、保護作用を持つ薬剤を特定できたとする。
今回の研究で検証された80種の化合物には、先行研究でAD発生率を低下させる可能性が示唆されてきたJAK阻害薬が多く含まれた。JAK阻害薬は、がんや関節リウマチに用いられている近年隆盛著しい分子標的薬で、AD発症に関与するタンパク質の作用を阻害して抗炎症作用などをもたらすと考えられている。JAK阻害薬のひとつ「バリシチニブ(日本での商品名:オルミエント)」はMGHを中心とした複数の施設において、認知症およびADを対象とした臨床試験がまもなく開始される。論文の著者のひとりでMGHアルツハイマー治療科学センターのMark Albers氏は「研究内で指名された薬物に独立した検証を行うことで、ADのメカニズム解明と新たな治療法につながる可能性がある」と語った。
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