医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例炎症性腸疾患の分類を糞便のみで行うAI研究

炎症性腸疾患の分類を糞便のみで行うAI研究

炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory bowel disease)は、慢性的な下痢・腹痛・血便などの症状を起こす疾患群で、クローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)を代表的な疾患として含む。IBDには正確な診断による分類が重要となるが、苦痛を伴う大腸内視鏡検査や生検といった従来手法を置き換えるような、非侵襲的で高精度の診断法が期待されてきた。

学術誌 Journal of Inflammation Researchには、中国の福建医科大学の研究者らによる「糞便マルチオミクス解析からIBDを非侵襲的に診断するAIモデル」が発表されている。このマルチオミクス解析では、糞便中の遺伝子や代謝物の特徴を統合的に解析することで、苦痛のない非侵襲的な診断法の開発を目指した研究が進められている。同研究のAIアルゴリズムではまず、非IBD・CD・UCの3群へ分類する。その際に消化器症状に基づく患者の自己評価(「very well とても良い」「slightly below par やや不良」)によってそれぞれ別のモデルを適用し、分類精度を向上させていることが特徴で、自己評価「とても良い」の患者層でAUC 0.85、「やや不良」の患者層でAUC 0.84を達成した。

自己評価「poor 悪い」「very poor とても悪い」「terrible ひどい」のサンプル数が少ないため、これらの層をカバーできていないことが同研究の現時点での限界でもある。一方で「モデルは全患者の90.97%を含むことができている」とする。便を採取するだけで高精度かつ非侵襲的にIBDを分類する研究は、検査の度重なる苦痛にさらされている患者にとって大きな福音であり、AI手法の将来性を感じさせる。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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