炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory bowel disease)は、慢性的な下痢・腹痛・血便などの症状を起こす疾患群で、クローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)を代表的な疾患として含む。IBDには正確な診断による分類が重要となるが、苦痛を伴う大腸内視鏡検査や生検といった従来手法を置き換えるような、非侵襲的で高精度の診断法が期待されてきた。
学術誌 Journal of Inflammation Researchには、中国の福建医科大学の研究者らによる「糞便マルチオミクス解析からIBDを非侵襲的に診断するAIモデル」が発表されている。このマルチオミクス解析では、糞便中の遺伝子や代謝物の特徴を統合的に解析することで、苦痛のない非侵襲的な診断法の開発を目指した研究が進められている。同研究のAIアルゴリズムではまず、非IBD・CD・UCの3群へ分類する。その際に消化器症状に基づく患者の自己評価(「very well とても良い」「slightly below par やや不良」)によってそれぞれ別のモデルを適用し、分類精度を向上させていることが特徴で、自己評価「とても良い」の患者層でAUC 0.85、「やや不良」の患者層でAUC 0.84を達成した。
自己評価「poor 悪い」「very poor とても悪い」「terrible ひどい」のサンプル数が少ないため、これらの層をカバーできていないことが同研究の現時点での限界でもある。一方で「モデルは全患者の90.97%を含むことができている」とする。便を採取するだけで高精度かつ非侵襲的にIBDを分類する研究は、検査の度重なる苦痛にさらされている患者にとって大きな福音であり、AI手法の将来性を感じさせる。
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