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COVID-19の感染力増大を予測するAIツール

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が進化を続けるにつれ、宿主への感染能力が高まり、宿主が保有する免疫システムを効果的に回避する新たな亜種の発生が予想される。SARS-CoV-2は、ウイルスのスパイクタンパクがヒト細胞上のACE2受容体に結合することで、感染の第一歩を踏み出す。米ペンシルベニア州立大学の研究者らは、ウイルスのスパイクタンパクがヒト細胞との結合性を向上し、感染力を高める可能性のあるアミノ酸変化を、合理的な精度で予測できる新しいAIフレームワークを開発した。

米国科学アカデミー紀要(PNAS)に収載された本研究論文によると、研究チームは、ニューラルネットワークを含む2段階の計算手順により、SARS-CoV-2のスパイクタンパクにおける受容体結合ドメイン(RBD)にどのようなアミノ酸変化が起こり、それがヒトや他の動物細胞のACE2受容体に結合する能力に影響を与えるかを予測するモデルを作成した。その結果、あるアミノ酸変化が結合親和性を向上させるか悪化させるかを、80%以上の精度で予測できたとする。

このモデルでは、アルファ・ベータ・ガンマ・デルタの各バリアントなど、既に観察されている種々のSARS-CoV-2におけるアミノ酸変化の結合強度を予測することに成功しており、未知あるいは新規の変異体における感染力予測への有効な計算手段となる可能性がある。ゲノムサーベイランスで得られた膨大なウイルス配列データを理解することに役立つ本ツールは、新型コロナウイルス感染症の感染管理施策に資する貴重な科学的示唆を与えてくれる。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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