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遺伝子情報から胸部大動脈瘤リスクを評価

胸部大動脈の肥大や動脈瘤は、動脈壁の膜がはがれる「大動脈解離」を引き起こし、突然死につながるリスクがある。大動脈の破綻前には患者自身に自覚症状のないことも多く、これまでは画像検査で計測される「大動脈の直径」によるリスク評価が試みられてきた。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究チームは「AI手法で大動脈径と関連する遺伝子変異情報を解析し、大動脈瘤リスクを推定する研究成果」を発表した。

MGHのプレスリリースでは、学術誌 Nature Geneticsに発表された研究成果を紹介している。本研究では、英国の長期大規模バイオバンク研究である「UK Biobank」から、約4万人に及ぶ対象者データを利用し、460万枚の胸部MRI画像から上行および下行大動脈の直径を評価するAIモデルの学習を行った。UK Biobankには大動脈径の測定値が提供されておらず、収集した全ての画像の大動脈径を読み取る大規模な処理としてディープラーニング手法を用いた。その後、対象者の遺伝子情報の解析により、上行大動脈の直径に関連する82の遺伝子領域と、下行大動脈の直径に関連する47の遺伝子領域を特定した。これらの結果から遺伝子変異を集約した「polygenic score(多遺伝子スコア)」を作成したところ、「スコアが高いほど大動脈瘤診断の可能性が高い」という有意な関連がみられた。

研究成果はリスクのある個人を特定するのみに留まらず、新たな予防法や治療法のターゲットとなる可能性がある。筆頭著者のJames Pirruccello氏は「特定した遺伝子変異は、大動脈瘤の新たな創薬標的をみつける出発点になるだろう」と語っている。ディープラーニングやその他の機械学習手法が、複雑な画像検査結果の科学的分析を加速させる裏付けとしても、本研究の価値は極めて高い。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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