米ユタ大学とインターマウンテン・プライマリー小児病院の研究者らは、160万人を超える匿名化電子カルテデータのマイニングによって、心血管疾患の発症と転帰に影響を与える因子を精査した。研究成果はPLOS Digital Healthからこのほど公開されている。
チームの研究論文によると、膨大なカルテ情報(160万人以上の患者による7700万回の診療記録)から心血管疾患の主要なアウトカムに影響を与える因子を探るため、確率的グラフィカルモデル(PGM)を用いた分析を行っている。PGMはDAGと呼ばれる非循環有向グラフによって複雑な因果推論を描出する手法で、個々の変数間を条件付き確率で示す確率推論モデルである。チームはこの「説明可能なAI(XAI)アプローチ」により、特に心移植や洞房結節機能障害、先天性心疾患に影響を与える因子等を明らかにしており、心筋症と診断された人の心移植リスクは86倍、ウイルス性心筋炎で59倍といった予測因子が示された。また、心移植の最も強力な予測因子はミルリノン(心不全治療薬)で、実に175倍を示していた。さらに、複合病変によってリスクが増加するものもあり、ミルリノン処方を必要とする心筋症患者は、心移植リスクが407倍に増加した。
著者らは「ミルリノン自体が心移植を引き起こしていることを示唆しているのではなく、医療記録におけるミルリノン処方が、将来の心移植の予測因子となっているだけだ」という点を強調している。また、ヒスパニック系・白人・黒人の心房細動患者において洞房結節機能障害の発症リスクが有意に異なることも明らかにしており、人種差や社会経済的因子に基づく医療格差など、疾患の上流にある因子をあぶり出す社会疫学的手法としても、その有効性を示している。
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