大腿骨近位部骨折は転倒によってしばしば発生するが、特に高齢者の場合は入院時合併症や偶発症、また中長期の安静臥床に伴う運動機能の低下などによって、生命予後の重大な悪化をもたらす。大腿骨近位部骨折を見逃さないための、高精度な画像識別AIが実現可能となっている一方、これらシステムの実臨床導入には一定の障壁がある。
オーストラリア・アデレード大学などの研究チームは、「大腿骨近位部骨折の識別を行う高精度なディープラーニングアルゴリズム」を用意した上で、これを実臨床導入した際の診断フローに及ぼす影響を評価した。研究成果はThe Lancet Digital Healthからこのほど公開されている。本研究論文によると、チームはロイヤルアデレード病院が保有する45,000枚以上のレントゲン写真を用い、大腿骨近位部骨折を識別するAIモデルをトレーニングした。次に、200枚の骨折症例と200枚の非骨折症例を用意し、5名の放射線科医に読影させたところ、識別精度はAUCとして0.969であり、対するAIモデルは0.994と有意にこれを上回っていた。しかし、さらなる調査では、人間の医師であれば容易に識別できる、金属埋め込みや高度転位骨折で誤診するなど、特定のエラーを内包していることが明らかとなった。また、「AIモデルによって骨折が疑われる患者」の最大10%が、初期のレントゲン評価単独では確定診断に至ることができないこと、さらに追加画像検査を受けた者のうちでさえ、直ちに骨折と診断することができたのは3分の1に留まっていた。
診断の遅れと追加の画像検査は、患者転帰の悪化、医療費の押し上げ、臨床医を含む医療リソースへの負担をもたらす。どれだけ高精度なAIを用意したとしても、最終診断を下す人間の医師に納得感がなければ確定診断は先延ばしとなり得る。AIの説明可能性を高めること、アルゴリズム監査を含めた「徹底的な前臨床評価」によるエラー特性の明確化、などが求められており、「ただ高精度なだけでは解決しない問題がある」ことを浮き彫りとしている。
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