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音声アシスタントとの交流が子どもに与える影響

Google HomeやAmazon Alexa、Apple Siriなど、スマートデバイスによる音声アシスタントが急速に広がる中、小児にとってどのような心理的影響が見込まれるだろうか。英ケンブリッジ大学の研究者がArchives of Disease in Childhoodに自身の見解を示している。「ヘルスケアにおけるAIと機械学習」を主な研究テーマとする著者のAnmol Arora氏は、音声アシスタントが小児に与える影響として懸念される点を3つ挙げている。

1.「不適切な応答」
音声アシスタントは子どもに対して「不適切で危険な応答をするケース」がある。一例に、Alexaが10歳の子どもに「コンセントと充電プラグの間を1セント硬貨で触れること(SNS等で蔓延した悪質な投稿、通称ペニーチャレンジ)」を提案をした事案があった。また、私的な会話を誤って録音し無作為に送信するケースなども例に挙がる。

2.「社会性発達の阻害」
子どもがデジタルデバイスを擬人化すると、人間同士の社会的エチケットが再現できない状況が起きる。例えばデジタル機器への要求に”please”や”thank you”という丁寧な言葉は使われにくい。また、声のトーンや要求内容が無作法で不愉快にならないよう配慮する必要がない。デバイスが子どもの不適切な振る舞いに建設的なフィードバックを与えることは難しく、その能力を実装して強化すれば倫理的な議論を呼ぶ可能性もある。そのため、非言語的コミュニケーション能力がないデバイスは、「社会的な付き合い方」を学ぶには適さない。COVID-19によるあらゆる制限の結果として、子どもの社会性発達が何らかの形で損なわれる可能性の高まる中では、特に重要な論点になるという。

3.「学習機会の阻害」
スマートデバイスは、要求に対し簡潔で具体的回答を提供するよう設計されている。それにより、子どもが主体的に学び吸収する「従来の学習プロセス」を阻害している可能性がある。子どもが質問するとき、大人は情報の文脈を求めたり、知識の限界を説明したり、子どもの推論を検証するといった会話が介在する。しかしデバイスはこれらのプロセスを再現しない。情報を自力で探すプロセスは、批判的思考や論理的推論を学ぶ重要な学習体験でもあり、インターネットの普及から同様の懸念は続いていると指摘する。

音声アシスタントの普及は人々に大きな利益をもたらしている。しかし一方で、社会的・感情的発達の重要な段階にある子どもたちが、これら機器と相互作用することで長期的にどのような影響を受けるか、早急に多面的な検討が必要となっていることを強調する。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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