近年の研究により、腸内細菌叢の乱れ(細菌叢の多様性が低下した状態を「dysbiosis」と呼ぶ)は、種々の疾患の原因となることが明らかにされている。一方、あらゆる健康ステータスは単一の腸内細菌叢シグネチャーとして表現されないため(異なる疾患群がシグネチャーを共有する)、従来的な単一疾患の診断モデルでは、誤った分類につながる可能性が指摘されている。
香港中文大学の研究チームは、糞便メタゲノムデータセットを用いて、マルチクラス診断モデルの開発に取り組み、その成果を公表した。Nature Communicationsからこのほど公開された研究論文によると、大腸がんや大腸腺腫、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、肥満、心疾患など多様な疾患をカバーする、これまでで最大のシングルサイトデータセットをチームは構築している。実に14.3テラバイト、325の微生物種をカバーしており、ここから学習したモデルは、独立した検証セットにおいて、疾患予測におけるAUCとして0.90-0.99、感度0.81-0.95、特異度0.76-0.98を達成した。
著者らは「マイクロバイオームベースの多疾患モデルは、疾病診断や治療効果モニタリングに臨床応用できる可能性がある」として、重点的な研究推進の価値を強調している。マイクロバイオームに基づいたマルチクラス診断モデルを開発する試み自体はこれまでにも確認されているが、公開データセットに依存した先行研究が多く、不均一性や技術的バイアス、バッチ効果によって、その精度は必ずしも十分なものではなかった。
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