NHS – 「診察予約のキャンセル」を防ぐAIシステム

英国民保健サービス(NHS)では、年間800万件の診察予約がキャンセルとなり、毎年12億ポンド(約2000億円)の無駄なコストが生じているという。予約の取りこぼしを減らし、医療リソースを最大限に活用するため、NHSではDeep Medical社のAIソフトウェアを試験導入している。同システムは、天候・交通状況・勤務先などの情報を用い、診察予約キャンセルの可能性を分析し、夜間や週末を含め最も都合の良い予約枠を提示することができる。

NHS Englandによると、同AIシステムは人口120万人を擁する中南部エセックスのNHS管轄地域で試験運用が始まっている。同地域での診察予約に対するキャンセル率は8%で、システムの本格運用によって年間8-10万件の診察が追加できると試算する。パイロット版のソフトウェアはDeep Medical社とNHSの現場職員による共同デザインで開発され、2023年にはさらに5つのエリアで試験運用される予定とのこと。

Deep Medicalの共同創業者であるBenyamin Deldar氏はNHSの臨床起業家プログラム(CEP: Clinical Entrepreneur Programme)の出身である。NHS CEPは、NHSスタッフが医療サービス変革のため商業スキル・知識・経験を取得するプログラムで、2016年の開始から7年で、1,000名以上の参加者、420社以上のライフサイエンス企業立ち上げ、8億6000万ポンド(約1400億円)以上の資金調達を達成してきた。Deldar氏は「NHSの受診待機者リストに取り組み、患者をより良く理解し支援するシステムを構築した。NHS CEPに参加したことで、目的意識をもってイノベーションを拡大するフレームワークとスキルが身に付いた」と語っている。

関連記事:

  1. 英NHS – 医療者のAI利用をサポートする新報告書
  2. 英NHSで試験運用が進む乳がん検出AI
  3. NHSの脳卒中ケアに革新をもたらすAI
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事