歯科補綴物における現在のコンピュータ支援設計/生産(CAD/CAM)技術は、歯科医療の改善に寄与しているが、「そのプロセスの多くで人間の手による調整を必要とする」という課題も残っている。香港大学歯学部の研究チームは「生成AIを活用したクラウン(被せ歯)のスマート製造手法」を開発している。
Dental Materialsに発表された同研究では、3D-DCGAN(3D-Deep Convolutional Generative Adversarial Network)と呼ばれる生成AI手法を用い、アルゴリズムに対して600例以上の自然で健康な歯列データを与えることで良質なデザインを教えこむとともに、生成器と識別器に基づく内部の競争的処理によってデザインの質を大幅に向上させている。結果的にアルゴリズムは、形態的かつ機能的に天然歯に匹敵するクラウンを設計できるようになったという。また、ケイ酸リチウムを使用することで、AI設計のクラウンは天然歯の期待寿命とほぼ一致するという計算結果も示している。
本研究の舞台である香港を含む「粤港澳大湾区(Greater Bay Area)」は、世界の歯科補綴物の25〜30%を生産する一大生産地で、スマート製造技術は高齢化社会および香港における歯科人材不足への対応に不可欠となっている。著者のJames Tsoi氏は「3D-DCGANを用いた手法は天然歯を模倣するだけでなく、人間が微調整を加えなくてもよいため、補綴物の製造プロセスにおける追加コストを削減できる」と語った。
参照論文:
Morphology and mechanical performance of dental crown designed by 3D-DCGAN
関連記事: