胸痛を訴える患者への対応において、虚血性心疾患に伴う心臓発作のスクリーニングが最優先となる。冠動脈が閉塞し心筋梗塞が発生した患者では、心電図の異常所見として「ST上昇」や、心臓バイオマーカーである「トロポニン血中濃度」の上昇を迅速診断の根拠とする。しかし、心電図異常が確認できない症例や、バイオマーカーが陽性範囲に達してない初期の発作など、スクリーニング手法の限界は大きな課題となっていた。米ピッツバーグ大学の研究チームは、心電図を解析するAIモデルを開発し、従来のスクリーニング手法を上回るリスク評価性能を達成している。
Nature Medicineに発表された本研究では、胸痛を訴えた患者4,026名の心電図を用い、心筋梗塞のリスク診断を行うAIモデルを開発し、その有効性を3,287名の患者で外部検証した。このモデルは胸痛患者を低・中・高リスクへと分類するもので、その性能は既存のリスク分類スコア「HEARTスコア(病歴・心電図・年齢・危険因子・トロポニン値から算出)」や「経験豊富な臨床医の心電図読影」、また「市販の心電図解析システム」のパフォーマンスを精度で大きく上回る結果となった。
研究チームは次の段階として、ピッツバーグの救急医療サービス局(PEMS)と協力し、救急サービスから心電図データを受け取った指令センターが患者のリスク評価を送り返すクラウドシステムを開発中という。著者のChristian Martin-Gill氏は、「このAIツールは、救急体制の中で治療を開始したり、高リスク患者の到着を警告するなど、医学的判断の指針として役立つ。また、心臓専門の医療施設へ行く必要のない低リスク患者の特定にも寄与し、病院前トリアージを改善する可能性が魅力的だ」と述べた。
参照論文:
Machine learning for ECG diagnosis and risk stratification of occlusion myocardial infarction
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