慢性化する創傷は、糖尿病や循環器疾患の患者、熱傷患者、高齢者らにとって重大な問題となっている。慢性創傷は二次的な合併症を引き起こすため、患者自身だけではなく医療システム全体にも大きな負担を与える。高齢化が進むシンガポールでも慢性創傷は社会的課題と認識されており、シンガポール国立大学(NUS)の研究チームでは課題の解決策として、創傷をモニタリングする紙状センサーパッチの開発に取り組んでいる。
Science Advancesに掲載された研究論文によると、開発中のパッチは「PETAL(Paper-like Battery-free In situ AI-enabled Multiplexed)」と名付けられている。薄く柔軟性があり、安価な紙状のパッチは、エネルギー供給なしで作動し、創傷の温度・pH・トリルメチルアミン・尿酸・水分を測定することで、創傷部位の炎症や感染を評価できる。このパッチには5枚の花びら状にセンサーが配置されており、それぞれが傷口から滲出液を採取し、15分以内にバイオマーカーを検出する。比色センサーが物質の濃度を色の変化として検出し、その画像をスマートフォンで撮影することで独自のAIアルゴリズムが患者の創傷治癒の状態を評価する。ラットの創傷・熱傷モデルでの試験では、PETALセンサーは創傷の治癒/非治癒を97%の高い精度で分類することが確認された。
研究チームによれば、PETALセンサーパッチが直接接触した皮膚表面には、4日間に渡って明らかな副作用の兆候はみられなかったとしており、動き回る患者への生体適合性が実証されている。著者であるSu Xiao Di氏は、「我々はPETALセンサーを薄く、柔軟で、生体に適合するよう設計した。家庭や専門外の医療現場でも、迅速で低コストの創傷管理が可能となることを期待している」と述べた。
参照論文:
Battery-free and AI-enabled multiplexed sensor patches for wound monitoring
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