医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例最新医療AI研究機械学習により創薬スクリーニングを10倍高速化

機械学習により創薬スクリーニングを10倍高速化

仮想スクリーニングを機械学習で強化することにより、15.6億個の薬物候補分子の解析時間を10倍短縮することに成功した。これは、東フィンランド大学の研究者たちが産業界と協働し、スーパーコンピュータを利用して「世界最大級のバーチャル・ドラッグ・スクリーニング」を実施したもの。

新規の薬物分子を見つけるために研究者は、大規模な化合物ライブラリの高速コンピュータ支援スクリーニングに頼っている。このような有機低分子化合物のコレクションは、ここ数年で特に急激な増加をみている。ライブラリは、これを処理するために必要となるコンピュータの改良スピードよりも速く成長しているため、最新のスーパーコンピュータを使用した場合でも、たった1つの創薬標的に対して10億個規模の化合物ライブラリをスクリーニングすることになり、これは実に数ヶ月から数年かかることもある。

高速な解析アプローチは切実に求められているが。このほどJournal of Chemical Information and Modelingから公開された研究によると、チームはまず、スーパーコンピュータを利用し、約半年かけて15.6億個の候補分子のドッキングを評価している。これは、低分子をターゲットの結合領域に当てはめ、その適合度を表す「ドッキングスコア」を計算するもの。ここから、高速な解析を実現する「HASTEN」と呼ばれる機械学習ツールを構築した。

HASTENは機械学習を使って分子の特性を学び、その特性が化合物のスコアにどのように影響するかを学習する。従来のドッキングから引き出された十分な例が提示されると、機械学習モデルは、従来アプローチよりもはるかに速く、ライブラリ内の他の化合物のドッキング・スコアを予測することができる。実際、ライブラリ全体のわずか1%がドッキングされ、トレーニングデータとして使用されただけで、このツールは10日以内に90%のベストスコア化合物を正しく同定していた。

著者らは「機械学習をブーストしたツールは、従来のドッキングで同定されたトップスコア化合物の大部分を、大幅に短縮された時間枠の中で、確実かつ繰り返し再現する」と指摘しており、大幅な時間短縮を介した計算創薬分野の急激な発展を期待している。

参照論文:

Machine Learning-Boosted Docking Enables the Efficient Structure-Based Virtual Screening of Giga-Scale Enumerated Chemical Libraries

関連記事:

  1. BIOVIA GTD – AIで創薬を加速させる
  2. ヴァンダービルト大学 – Neumora Therapeuticsとの創薬パートナーシップを締結
  3. 特許出願でみる「AI開発の勢い」
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事